2001年度 採集記(北関東〜福島県 カミキリ編)

前哨戦

さあ、いよいよ私にとって今季最長となる採集ウィークへ突入した。

待ちに待った10日間の始まりである。

というわけで、まずはこの連休を利用してその先行きを占う「前哨戦」を敢行しようと思う。

要するに、来週に控えた「大遠征」の前の「運試し」である。

この6月には上信越方面のコルリ新芽採集を敢えて諦めてまで、北関東から福島県にかけて下見を兼ねた「カミキリ採集行脚」を行なった。

そう、今回の採集行のための準備であったのだ。

もちろん、ターゲットは「ネキダリス」、それも群馬県に多産すると言われる「ギガンティア(オニホソコバネカミキリ)」だ。

カミキリを本格的に始めて4カ月、そんなレアなカミキリが素人にそうそううまく採集できるとも思えないが、ギガンティアの生態面&ポイント情報の収集、実際の下見、やれるだけのことはやってきたつもりである。

例年の記録を参考にすれば、シーズン的にもどんぴしゃであり、あとは実践あるのみという状態だ。

それでは、はやる気持ちを抑えつつ、東京を離れるとしよう。



2001.07.19 (Thu) 〜
2001.07.22 (Sun)

   群馬県 利根郡
   栃木県 塩谷郡
   福島県 南会津郡

   天気:晴れ一時雨
   気温:19.3 〜 32.2 度
   湿度:51 〜 98 %
   風力:0〜3
北関東〜福島産カミキリ、夏休み前哨戦編
たった一人の「ネオ・ネキダリス狂騒曲」 第3章

● 相棒と合流

連休へ突入する木曜日の夕方、仕事を終えた私は自宅にて採集の準備を整えた後、単身、関越自動車道を目指した。

今回は途中のSAにて相棒と合流する予定であり、翌日から2人でネキダリスを狙うことになっている。

まあ、そういうわけで、厳密には「たった一人の「ネオ・ネキダリス狂騒曲」」ではないが、その辺は大目に見ていただきたい。

外環自動車道にて少々の渋滞に見舞われたが、ほぼ定刻通り相棒と合流することができた。

夕飯を食べながら今晩の予定を立てた後、2台で目的地へ向け出発した。

今晩はとりあえず、昨年私が発見した群馬のポイントにて灯火を張ることになった。


● 灯火@群馬

ポイントへ到着した時点で、すでに日はどっぷりと暮れており、灯火を張るにはやや遅いスタートだ。

今晩のターゲットとしては、クワガタはもちろんのこと、灯火に飛来するカミキリを狙っていきたい。

くだらない話をしながら、首尾よく灯火セットを組み立てる。

今季から相棒のセットは大幅にグレードアップ。

1600Wまで対応可能な発電器に、合計1300Wの水銀灯をぶら下げる。

かなり強烈だ。
さあ、何でも来やがれ!

と気合いは十分なのだが、何故か甲虫が薄い...。

ここは、昨年の8月に一晩でクワガタを120頭あまりも採集したポイントなのに。

微妙に発生時期を外してしまったか?

う〜〜ん、アカアシの♀が1時間に1頭...。

失意のなか、シーツに視線をやると、隅っこの方に長い触角が2本見えた。

っしゃ〜〜!

トゲバカミキリじゃん。

と、写真を撮ったのはいいが、ポロっと落ちてどこかへ飛んでいってしまった...。

ああああ、今季初採集種だったのに...。
まあ、しょうがない。気を取り直し、新たな飛来を期待しよう。

と、しばし地面に座り込んで幕面を眺めていると、スレンダーな甲虫が飛来してきた。

ふ〜〜む、ホソカミキリ。

最近はカミキリムシ科に含めない?、のかもしれないが、一応カミキリムシとしてカウントすることにしよう。

外見はどう見てもカミキリムシなんだけどね。

[ Distenia gracillis gracillis (BLESSIG, 1872) ]

そして、相棒が「あっ!、カミキリ」、幕面を指さしている。

OK!

ハンノアオカミキリだ。

こいつは灯火以外にも、日中、広葉樹の伐採木に飛来する種類である。

美しい。

[ Eutetrapha chrysochloris (BATES, 1879) ]

普通種でなかったら、きっと大人気の1種となることだろう。

ふと、地面を見るとマダラ模様のカミキリが速足で歩き回っていた。

群れ飛ぶガを払いのけながら拾ってみると、ゴマダラモモブトカミキリであった。

かろうじて、もう1種追加できた。

[ Leiopus stillatus (BATES, 1884) ]

なんとか恰好はついたが...。

その後、どういうわけか、な〜〜んも飛んでこなくなってしまった。

だめだこりゃ...(いかりや長介風に)。

ここで、急遽撤収を決め、明日のギガンティアポイントまで大移動をかけることにした。

というのも、ムシの採れない場所にいつまでもうだうだしていられない、ということもあるが、そもそもギガンティアは「早朝にクワの葉裏にとまっている」ことが多いらしく、夜明けとともにポイントへ入っていたいというのがその最大の理由だ。

さくっと灯火セットを片づけた後、深夜の峠道をポイントへ向けタンデム走行する。

目的のギガンティアポイントから少し離れた場所に車中泊できそうな駐車場が見つかったため、そこで寝ることにした。

あああ、疲れた。


● 夜明け

約3時間の睡眠の後、目覚ましのアラームにたたき起こされる。

うへぇ〜〜、まだ外は暗いじゃん...。

「コケコッコ〜〜」と鶏の鳴き声が周囲にこだまする日の出前、半分寝ぼけながらポイントへ直行する。

到着してしばらくすると、徐々に周囲がうっすらと明るくなってきた。

さすがに日中は猛暑となっても、標高の高い場所の朝は寒い...。関東平野の熱帯夜が嘘のようだ。

こんな条件で採ることができるのだろうか?

とりあえず、3本あるクワ老木の元へ歩み寄って上を見上げてみるが、この明るさでは仮にギガンティアがとまっていても全く識別することすらできない。

う〜〜ん、ちょっと早すぎたかな...。

仕方ないので、もう少し明るくなるまで、近辺に生えるオニグルミを見てみることにした。

相棒にヨツキボシカミキリやオニグルミノキモンカミキリの美しさを生で見てもらいたい。

前回ここを訪れてから1カ月という時間が経っているが、やつらはまだいるのだろうか?

随分と食害の進んだ葉の裏を念入りにチェックしていくと...。

いたいた。

普段は俊敏なカミキリなのだが、気温が低いため凍りついている。

まったく微動だにしない。

お陰で、今日は落ち着いて生態写真を撮ることができた。

[ Epiglenea comes comes BATES, 1884 ]

相棒共々、10頭ほど採集することができた。

結局、オニグルミノキモンカミキリはいなかった。すでにシーズンが終わってしまったのかもしれない。


● 勝負!

さて、すっかり日が昇り気温も急に上がってきた。

ここら辺で勝負をかける。

相棒と2人でひたすらクワの葉の1枚1枚を食い入るように見ていき、時に周辺を飛翔していないかと遠目に眺める。

お願いだからいて欲しい。

が、そんな努力も虚しく、視線を釘付けにする対象物は一向に見つからない。

う〜〜ん、駄目か...。

聞くところによれば、ギガンティアの活動時期はせいぜい2週間ほどしかないらしい。ここのところの暑さで発生が早まっていれば、もうすでに終わってしまっている可能性も否定できない。

ムシの活動シーズンを考える場合、その年その年の気候が大きく影響するため、例年の記録というものはあくまで「参考」でしかないということか...。それをまったく鵜呑みにするのは駄目なのかもしれない。

来季以降はなるべく気候を読んで、臨機応変な採集計画を立てねばならないだろう。

まあ、ぼやいていてもしょうがない。付近に新たなクワがないか探すとしよう。来年へ向けて下見をしておくことも大事である。

相棒をこの場に残し、奥の方を探索することにした。

沢沿いのあぜ道をとぼとぼ歩く。すでに気温は30度に届こうかというほど蒸し暑くなっている。数分の徒歩で汗だくである。

ん!、向こうの方にクワの大木がありそうだ。速足でそこへ向かう。

素晴らしい!

クワの老木が数本、堂々と生えているではないか。


クワの大葉がそよ風に揺れている。

葉を見ていると、その周囲をネキダリス似のハチが飛翔しており、一瞬どきっとさせられる。

さらに、もっと奥の方にもクワが数本生えていることが確認できたため、ここで相棒を呼んで2人でギガンティアを狙うことにした。

これだけのクワがあると、どう考えても一人じゃ見きれない。

というわけで、再び2人で勝負をかける。

すると、背後から相棒の声が...、「カミキリいますよ」。

むむむ、ギガンティアか!?

「いいえ、違います」

くっ〜〜!

キボシカミキリ。

まあ、いるだけましか...。

ありがたく採集させていただいた。

[ Psacothea hilaris (PASCOE, 1857) ]

しかし、本当にギガンティアは影も形もない。

午前中はクワの周囲を旋回するように飛翔するとの目撃談も過去にあるが、そんな雰囲気は微塵もないのである。

気温もかなり暑くなってきたため、条件的にも厳しそうだ。

う〜〜ん、仕方ない。涙を呑んで今季のギガンティアは惨敗宣言...。

挑戦はまた来年ということにして、このポイントを後にするのであった。

ああああ、悔しい。


● 周辺の探索

早起きしただけあって、昼まではまだまだ時間がある。

ギガンティアポイントの近辺にも、いくつか下見しておいた集材所や林道があるため、それらを見てみようということになった。

まずは、県道沿いにクリの花を発見したため、試しに掬ってみることにした。

茨城や栃木の平野部ではとっくにシーズンが終わってるというのに、ここではまだ健在であるのだから面白い。

なんか季節感が混乱する。

うおおっ!!

真っ赤なカミキリが採れた。

これは、クスベニカミキリというカミキリで、生涯初採集となる。

うっしゃ〜〜!
[ Pyrestes nipponicus HAYASHI, 1987 ]

他は、エグリトラカミキリばっかり...。

というわけで、少々場所を移動する。

今度はクワの伐採木を積み上げてあるポイント。

最上部の「ソダ」には小さなカミキリがいるようである。

相棒が慣れない手つきで、それらを採っているところ。

これは、ヒメナガサビカミキリ。

枯れ枝に群がる、いつもながらの地味系カミキリだ。
[ Pterolophia leiopodina (BATES, 1873) ]


材の隙間にはキボシカミキリも。

掴んだ瞬間、自分の触角を噛み切ってしまったためリリース。

標本にしても恰好悪いからね。
それを知っていて噛み切っていたらすごいけど...。

しばらく材を観察していると、地主の方がやってきた。

虫採りであることを告げると、向こうの方でオニヤンマが羽化しているという。

「白無垢」と言うか、「ブランニュー」と言うか、なんか神秘的だ。

ちなみに、家の庭にある水たまりのようなしょぼい環境で育っているようだ。

なんと逞しいことか。


● ノリウツギ大爆発

さて、車を1台にまとめ、さらに先へ行く。

うおおお、道沿いにはノリウツギが満開状態。

各花房には有象無象が群がっている。

急いで網を取りだし、ルッキング&スイーピングを開始する。
うれしいことに、次から次へとカミキリが飛来してくる。

もう、テンション急上昇だ。

以下に飛来種を列挙していく。

この時期の優占種、フタスジハナカミキリ。

まさに大発生しており、矢継ぎ早に飛んでくる。
[ Leptura vicaria vicaria (BATES, 1884) ]


同じく優占種のヨツスジハナカミキリ。

これまたマシンガンのようだ。
[ Leptura ochraceofasciata (MOTSCHULSKY, 1861) ]

しばらく採っていると、明らかに恰好の異なる厳ついカミキリが飛来していることに気がついた。

まずは相棒がそれをネットインする。

おっしゃ!

フタコブルリハナカミキリ。

大型のハナカミキリはめっちゃ格好良い。
[ Stenocorus coeruleipennis (BATES, 1873) ]

時間帯が良いのか、フタコブルリハナがどんどん飛んできているようだ。

もう、狂喜乱舞。

冬には決して体験することができない「夏の採集」の醍醐味をとことん堪能する。

これはやや緑味が強く、触角も褐色をしている個体。

体格もすこぶる大きい。

ちなみに、前胸背にあるこのコブが名前の由来。

見ての通り「フタコブ」だ。
う〜〜ん、大満足。

というわけで、あっという間に午前が過ぎ去ってしまった。

ここで我に戻り、当初の計画通り栃木県へ向けて移動をすることにした。

当然、その途中で主たるポイントを見て回るのは言うまでもない。

では、出発しよう。

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