2001年度 採集記(奈良県 カミキリ編 -1-)

古(いにしえ)の都

さて、数ヶ月ぶりの関西出張である。

いつものように、帰りの新幹線の時間までを採集に当てようと企んでいるのは言うまでもない。

今回ターゲットに据えた採集地は「奈良県」、特に北部は「寺社仏閣」と「鹿」で有名な古の都である。

歴史好きでもある私にとっては、東大寺、法隆寺、春日大社、斑鳩(いかるが)の里、橿原神宮などなど、見たいポイントがめじろ押しなのだが、採集意欲には勝てるはずがない。

それらは老後の楽しみとしてとっておくとしよう。それまでちゃんと建っていて欲しい。

それでは、採集、いいや仕事へ出かけよう。



2001.06.20 (Wed)

奈良県 某所

   天気:曇りのち晴れ
   気温:23.2 〜 25.5 度
   湿度:62 %
   風力:2(軽風)
奈良産カミキリ、流血戦@古の都編

● 茨城 → 大阪

火曜日はいつものように茨城にて仕事である。これから大阪まで行かねばならぬとは気が重い...。

一体、どれだけ電車に乗っていなければならないのだろうか?、まじで「どこでもドア」が欲しい。

というわけで、いつもより早めに茨城を発たせてもらい、いざ「スーパーひたち」へ乗り込む。

まずは、一端東京の自宅へ大事な「忘れ物」を取りに戻る。

そして、新幹線へ乗るため速攻で東京駅へ休む間もなく出発だ。

定刻通り「のぞみ」へ乗ることができたが、さすがに名古屋辺りで意識がなくなり爆睡...。

どのくらい寝たのだろうか、すでに京都を過ぎており、あと数分で「新大阪」らしい。「うおお、まずいまずい、岡山までいっちゃうよ」、慌てて棚から荷物を下ろしたため手首をくじいてしまった。めちゃくちゃ痛かった...。

さて、無事に大阪の地を踏むことができた。茨城から勘定して、正味、5時間は電車に揺られていたことになる。本当に日本は広い...。

とりあえず、明日からの「足」を確保するため、駅前でレンタカーを借りる。そして、その足で今回の仕事場である会議場へ。滑り込みセーフであった。

ものの2時間でミーティングは終了。これからは完全にフリーな身分だ。

ホテルにてゆっくりと明日のプランを練る。天気予報によれば、奈良県には大雨、雷注意報が出されており、降水確率は北部・南部とも90%。

どうひいき目に見ても「絶好の採集日和」にはほど遠い。180度対角線に位置する空模様である。

ああああ、なんてついていないんだろう。

まあ、出張がてらに採集をしようと「調子のいいこと」を言っているのだから仕方ない...。

いずれにしても、車を借りてしまった以上採集地へは行くつもりだ。

プランとしては2案、本格的な登山採集か、ハイキングコース沿いのマイルドな採集である。

う〜〜ん、マホロバヒメハナカミキリなどの特産種を採りたい気もするが、やはり天気予報を見てしまうと「登山採集」はあまりに危険な香りがする。アプローチすらままならないかもしれない。

まともに考えたら、奇跡でも起こらないかぎり90%の降水確率がひっくり返ることはないだろう。

ということで、明日は後者のプランを選択することに決定した。


● 奇跡

登山採集をするのであれば、早朝にホテルを発たねばならなかったが、行かないと決めたためモーニングコールを設定しないまま寝てしまった。

ううううっと目が覚めたのは7時過ぎ。天気はどうかとカーテンを開けてみる。

すると、どんよりとしているものの、なんと雨が降っていない!、90%降るのではなかったのか?

ああああ、奇跡だ!!

大雨と踏んでいたので、うれしい誤算である。こうなったら、ゆっくりなどしていられない。大急ぎで荷物をまとめ、チェックアウトもそぞろに車へ乗り込んだ。

近くのランプから高速へ乗り、一路、奈良県を目指す。

しっかし、大阪の高速には「オービス」が多い...。


● ポイントへ

途中、渋滞にひっかかることもなく順調にポイント付近へ到着した。

雨も降っておらず、それなりの成果が望めそうである。

この天気なら長靴を履かないでも大丈夫だろうと、スニーカーのままハイキングコースへ突入する。

「靴」、実はこれが最大の誤算であったのだが、それは後ほど紹介しよう。

数分歩いていくと、民家脇にクリの花が咲いているのを発見、早速ルッキングしてみる。

これが「クリの花」。

ハエやアリなどは集っているが、甲虫の姿はない。

うおおおっ、目前の葉上に動くものが...。

ああああ、びっくりした。

いきなり目の前に現れるなよ。

しばらく観察してみるも、カミキリはいそうにもない。

う〜〜ん、だめか。
というわけで先を急ぐ。


● 流血戦

さて、林道をどんどん進んでいくと、比較的広い伐採地へ出た。

太い材自体はないものの、枝がそこら中に放置されている。

いわゆる「ソダ」と呼ばれるものだ。

当然、カミキリムシやタマムシが狙える絶好のポイントとなる。

わくわくしながら観察を開始する。

背景の植生も原生林のようで、申し分ない。

ただ、少々ガスっているのと、気温がまだ上がっていないのが心配ではある。

いずれにしても、良いポイントなのでしばらく粘ってみよう。

各「ソダ」の山を順に巡回しながら見ていく。

30分ぐらい経ったであろうか、なんか両足首が「ちくちく」する。

なんだろう?

うわぁ〜〜!!

「ヒル」だ!

靴下の上から、しっかりと私の足に食らいついている。

ズボンをめくってみて、さらに気が遠くなる。
私の足首を1周するように、ヒルがひっついているではないか!

まるで、ヒルの「アンクレット」だ。

そして、足、靴下、靴は流れ出る血で「真っ赤」に染まってしまっている...。

一応、その写真も撮っておいたが、あまりにエグい画像なので掲載は控えよう。

とりあえず、このまま血を吸わせ続けるのはシャクなので、指でつまんで剥がそうとするが、ものすごい吸引力で離れようとしない。仕方なくタバコの火で応戦する。

さすがに「熱さ」には耐えられないようで、次々と「敵」が私の足から剥がれ落ちる。

ところが、ふと地面を見ると、第2陣、第3陣の波が私に向かって押し寄せてきているではないか。

後に聞いたのだが、動物が吐き出す二酸化炭素や、地面を伝わる「振動」が獲物接近の合図になっているらしい。

やつらも生活がかかっているためか、すごいスピードでアプローチしてくる。

写真のブレ具合でも分かると思うが、かなり「本気」だ。

伸びるとこんなに「びよ〜〜ん」となる。

辺りを見回すと、かなりの数のヒルが私を目がけて猛チャージをかけている。

う〜〜ん、すっかり囲まれてしまったみたいだ...。

かなり形勢不利な状況。

というわけで、やむなく撤退。

しかしながら、細い林道を駆け抜ける最中にも容赦なく、足、腕にヒルが飛びついてくる。

ああああ、勘弁してくれよ〜〜。

やっとのことで、敵陣を抜け出しセーフティーゾーンへ。ここまでくれば大丈夫だろう。

まじまじと、やつらの「吸い口」を見てみる。

だら〜〜っと、止まることなく血がにじみ出ている。

ちなみに、ヒルは「ヒルジン(hirudine)」という抗凝血作用(血を固まりにくくする作用)のある成分を吸い口から注入するため、なかなか血が止まらないのだ。

あああ、このまま新幹線に乗ったら薄気味悪がられるだろうなぁ。

面倒でも「長靴」を履いてくればよかった...。

「後悔先に立たず」である。


● 再びクリの花

流血戦に敗北し、少し意気消沈してしまったが、気を取り直し先ほどの「クリの花」まで戻ることにした。

気温がやや上がってきたため、何か飛来しているかもしれない。

近くまで戻ってくると、クリのすぐ脇にあった伐採後のカエデに何かがしがみ付いているのを発見した。

そ〜〜っと近づいてみると...。

っしゃ〜〜、カミキリだ。

やっと採集することができた。

これはナガゴマフカミキリ。
[ Mesosa longipennis BATES, 1873 ]


保護色で分かりにくいので、もう一枚。

けっこうシュールな色合いである。
さて、クリの花を見てみよう。

う〜〜んと、上の方まで見てみると、いたいた。

ホソトラカミキリだ。

普通種だが、私の未採集種である。

[ Rhaphuma xenisca (BATES, 1884) ]

そして、エグリトカラミキリを立て続けに2頭ゲット。

さらには、ミドリカミキリをも2頭採集できた。

前胸背がかなり「赤い」個体である。

クリの花も捨てたものではない。

[ Chloridolum viride (THOMSON, 1864) ]

徐々に調子づいてきたようである。

それでは、午後の部へ突入しよう。

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