2001年度 採集記(東北縦断 カミキリ編)

夏の祭典

先週末の「前哨戦」と称した採集行においては、本命の「ギガンティア」が得られなかったものの、初心者には十分すぎるほどの成果を挙げることができた。正直なところ、かなり「お腹いっぱい」になってしまった感がある。はっきり言って「飛ばしすぎ」てしまった。

本来は今回の「東北遠征」にこそ、気合いのピークを持っていかなければならないところであったのだが...。

まあ、いずれにしても、当初の大目標「ネキダリス」はすでに採ってしまっているので、気分的には随分と楽である。

というわけで、今回の採集は過度に気張らず、来季以降の下見も兼ねて「お祭り気分」で楽しもうと思う。

それでは、「東北カミキリ・夏の祭典」モードに入るとしよう。



2001.07.24 (Tue) 〜
2001.07.28 (Sat)

青森県
秋田県
岩手県
宮城県
福島県
茨城県

   天気:晴れ〜雨
   気温:16 〜 32 度
   湿度:47 〜 98 %
   風力:1〜4
東北産カミキリ、みちのく2人旅 2001編
たった一人の「ネオ・ネキダリス狂騒曲」 第4章

● ひたすら北上

いよいよ長期遠征の初日を迎えた。

が、この日はいつものように仕事にて茨城へ来ており、業務から開放される12時に相棒が迎えに来る段取りとなっている。

難なく午前中の仕事をこなしつつも、頭の中はすでにこれからの採集のことで占拠されてしまっている。職場のどこにいても落ち着かず、とにかく12時という時間が待ち遠しい。

11時30分ごろ、マナーモードにしていた携帯が机の上でブルブルと小刻みに震えながら飛び跳ねた。

相棒からの電話で、すでに到着しているとのこと。

急いで外へ出てみると、相棒のレガシィが入り口に横付けされていた。

「けっこう遠いっすね...、こんなところまで毎週来てるんですか?」

「そう、毎週来てるんよ、けっこう侮れない距離だろ」

早速、大量の荷物を相棒の車へ載せ換え、準備は完了。12時となった瞬間に職場を後にした。

まずは常磐道から磐越道を乗り継ぎ、郡山で東北道へ合流。その後は目的地である青森へ向けて、ひたすら北上だ。

初日の本日はここ数日と変わらず、まさに「酷暑」。通過する各県でも軒並み30度を超えており、エアコンがまったく用をなさなくなっているが、ムシを採る条件としては申し分ないだろう。

当然車内では、あれが採れるかも、これも採れるかも、などと皮算用でさらに熱くなる。

途中で休憩を入れつつ、延々宮城県、延々岩手県という気の遠くなるルートを走破した後、無事に青森県へ突入することができた。そして、下道を延々と走り続け、ようやくポイント近辺へ到着した。

しっかし、この段階で600キロ以上も走ってしまったのだから、本当にアホとしか言い様がない...。


● 灯火@青森

地元のレストランで夕食を食べようと思うのだが、どこもかしこも閑散としていて人影が無い...。実際、入ったレストランでも客は私と相棒の2人だけだ。なんとも寂しい光景である。そして、よくこれで経営が成り立つとも思う。

刻々と日没が迫っているため、食事の後、休む間もなくポイントへ直行する。

酔ってしまいそうな悪路を走り抜け、ようやく今晩の灯火ポイントへ辿り着いた。

いや〜〜、ここまで長かった。

ふ〜〜っと、ため息をつきながら、黄昏のなか周囲の景色を見渡す。

ここは切り立った崖の上に位置し、ちょうど「吹き上げ」の状態になっている。さらに正面には数千年いいや数万年という間、人の手が入っていないと思われる原生林と対峙するという際どい場所である。まるで太古の風景を眺めているようだ。

相棒もよくこんな場所を見つけたものだ。

昨年の状況では、崖の下から大量のムシが吹き上げられ、それはもう息すらできない状態だったらしい。

話を聞くだけでテンションはレッドゾーンを振りきってしまった。

計り知れない採集欲に後押しされ、あっという間に灯火のセッティングも完了。

その十数分後、太陽がすっぽりと山の稜線に隠れ、徐々に暗黒の世界へと移り変わっていくのがわかる。

さあ、いよいよライトオンだ。

合計1300Wという強烈な光量により、今度は一変して周囲が昼間のように明るくなった。

さあ、何が飛んでくるのだろうか。

もっとも期待感に満ちた瞬間と言える。
ただ本日は「風」がかなり強いため、その点だけが唯一心配である。

強風が吹くたび、シーツがヨットの帆の役割を果たし、灯火セットが飛ばされそうになる。一寸先は奈落の底であり、かなり危険な状態と判断し、やむを得ずシーツに切れ目を2本入れて急場をしのぐことに。

さて、今回の青森灯火では、何と言っても「ヨコヤマヒゲナガカミキリ」が大本命である。ブナ(他、ブナ科の樹木)の生木をホストとするカミキリであり、各地のブナ林における灯火にて採集されている種である。関東近辺では、なんと東京の高尾山においても採集可能な種であるらしい。

相棒は昨年もこの場所にて数頭ゲットしており、飛来するのは確実と見ているのだが、今晩のコンディションではどうであろうか?

来るのか?、来ないのか?、ワクワクすると同時に、駄目だったときの絶望感も容易に想像できる複雑な心境だ。

ライトオンの後、数分と待たない間に小虫どもが多勢に無勢で押し寄せ、早くも凄まじい様相を呈してきた。すでに容易に幕面へ近づける状況ではない。

フォローウインドに乗って「ぶわ〜〜っ」と有象無象が集まってきては、アゲインストに押し戻され、行ったり来たりしている。まるで波打ち際のようだ。

ただ、向かい風が吹いている最中は本当にムシが来なくなってしまうため、それはそれで寂しい。まあ、その間が一番幕面を見やすいのだが...。

午後7時34分、そんな心配をよそに、まずは最初のアカアシが飛来する。

相棒曰く、日没直後の早い時間には、アカアシの♀が例外なく飛んでくるそうだ。その後♂が混じり、ある時間を境にミヤマが来はじめ、アカアシの飛来は止まってしまうそうである。これは、地域により偏りが少なく、どこでもほぼこのような傾向だという。ちなみにオオクワガタの飛来は深夜帯が何気に多いとのことだ。この辺のデータは採集仲間でまとめているので、シーズン終了時にどこかで紹介されると思う。

さて、幕面を観察してみると、一瞬カミキリにそっくりな「ハチ」が多くてうんざりする...。

が、よ〜〜く見てみると、小さなカミキリもどうやら飛来しているようだ。

ジュウニキボシカミキリ。

この晩は強風にもかかわらず、けっこうな数が飛来している。

小粒だがF1マシンのようなデモンストラブルなカラーリングをしていて、美しいカミキリである。
[ Paramenesia theaphia (BATES, 1884) ]

先日栃木県で採集して以来、すっかり虜になってしまった一種だ。

次々とシーツからつまみ出し、合計6頭も得ることができた。

そして、灯火ではおなじみの美麗種、ハンノアオカミキリ。

同じく、6頭ゲットできた。

悪条件の中、なかなか幸先はいい。

[ Eutetrapha chrysochloris (BATES, 1879) ]

しかし、待てど暮せど今回の本命である「ヨコヤマヒゲナガカミキリ」はやってこない。

相棒によれば、遅い時間に飛来するらしいのだが...、もうその遅い時間に入りつつある。

う〜〜ん...。

その後もヨコヤマの飛来をじっと待ち続けていると、最悪なことに雨が降り出した。雨脚が強いため、仕方なく傘を取りに行く。

と、その直後、相棒から衝撃の一声が!

「あっ!、カミキリ、ヨコヤマだ!!」

やった〜〜!

飛来するやいなや、シーツの上縁を忙しなく歩き回っている。

紛れもないヨコヤマヒゲナガカミキリだ。

震える手で大本命を鷲掴みにした。

ハンディカムの画像のため画質悪し...

翌朝の記念写真。

ロマンスグレーと言おうか、何と言おうか、実に上品で渋いカミキリである。


噛む力が強く指がかなり痛いが、まじまじと憧れの獲物を眺める。

う〜〜ん、しばし採集成功の余韻に浸る。

遠路はるばる、ここまで来た甲斐があったというものだ。

[ Dolichoprosopus yokoyamai (GRESSITT, 1937) ]

「初ネキダリス」ゲットほどの「爆発的な喜び」はなかったものの、初心者憧れのカミキリを採れたことは本当にうれしく思う。

さて、その後も引き続き、新たな個体の飛来を待ってみたが、気象条件は益々悪化するばかりで、これ以上の成果は望めないと判断。今晩の灯火はこれにて終了ということになった。

ちなみに、この晩飛来したミヤマ。

ボックスの蓋を開けておくと、勝手に飛び立っていく。

さようなら!


● ブナ林探索

目が覚めてみると、外はすでに明るくなっており、雨は降っていない。

とりあえず、灯火セットを撤収し本日の予定を立てる。

この灯火ポイントの周辺は、文句の付けようがないほどの見事なブナ原生林である。したがって、林縁のノリウツギやブナ立ち枯れに飛来するネキダリスを中心に見ていこうということに決定した。

ここからは過去の記録を参考としない、言わば新規開拓であり、久々に闘志に火が付きそうである。

適当に周囲を見渡すだけで、このような素晴らしいブナをいくらでも見つけることができる。

これならネキダリスも採れようというものだ。


こんな倒木もゴロゴロと至る所に転がっている。

逆にそれぞれを見ていくのに骨が折れるほど材は豊富だ。


表面にはルリクワガタの産卵マークもびっしりと刻まれている。

このエリアは、このようにブナ材がふんだんにあるだけでなく、ノリウツギやシシウドなどの訪花性カミキリが好む花も多くみられる。随時、それらもチェックしていく。

やはりここでもヨツスジハナカミキリは優占種だ。

狂ったように花粉を貪っている。


完璧に「いつものやつ」

[ Leptura ochraceofasciata (MOTSCHULSKY, 1861) ]


また、こんなやつらも大発生。

チャボハナカミキリ。

花上はラブホテル状態...。

別の花にも...。
[ Pseudallosterna misella (BATES, 1884) ]

なかなか「いいカミキリ」が見つからないが、活動している普通種の個体数は比較的多く、マメに探せば1〜2種は未採集種が発見できそうな雰囲気である。

基本的にせっぱ詰まった心境ではないため、こんなカミキリ達を眺めているだけでも楽しい。

ノリウツギを見上げる相棒。

「変わったのいる〜?」

「いません...」

こんな感じであっという間に昼となってしまったため、一端、昼食を摂りに麓まで戻る。

またまた閑古鳥の鳴くホテルにて、2人寂しく天ソバを平らげた後、再びブナ林の探索を開始した。

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