2001年度 採集記(山梨県 カミキリ編 -1-)

秋のカミキリ

今年はどうも早めに秋が来てしまいそうな勢いなので、今回から「秋のカミキリ」を狙った下見&採集をしていきたいと思う。

秋のカミキリと言えば、オオトラカミキリを筆頭に、コブヤハズカミキリ類、アカジマトラカミキリ、ヨツボシシロオビゴマフカミキリ、ケブカマルクビカミキリ、ハセガワトラカミキリ、タテジマカミキリ他、けっこう多くの種類が挙げられる。

今回はとりあえず下見として、これらのカミキリを狙いやすい山梨県へ足を運ぶことにした。



2001.08.19 (Sun)

山梨県 某所

   天気:晴れ
   気温:28.6 度
   湿度:68 %
   風力:2(軽風)
山梨産カミキリ、まずは下見編

● オオトラカミキリ

冒頭でも書いたように、秋にもカミキリムシは採れる(らしい)。

なかでも、日本産最大のトラカミキリである「オオトラカミキリ」は昔から大物珍品と位置づけられており、文句なしに「秋の大物No.1」と言えるターゲットだ。図鑑においても、その大きな体から放たれる存在感、威圧感は尋常でない。

一方で、オオトラカミキリはモミ林に普通に生息している「普通種」とも言われるそうだが、背の高いモミの樹冠部に生活圏があることから、野外で成虫と出会えるチャンスは非常に少ないらしい。それゆえ、その人気は衰えることを知らないのである。

もともとはモミ(他はエゾマツ、トドマツ)の害虫であり、北海道かどこかの針葉樹林にて大きな被害があったという話も聞いている。

また、経験者の採集記を参考にすると、一般的には晴れて乾燥した日(前日も晴れているとより良い)の午後に♀が下まで降りてくるそうだ。要するに、その一瞬のチャンスを逃さずに採らねばならないということになる。残念ながら、♂はなかなかお目にかかれないとのことだ(現実的に得る手段は、材採・飼育がほとんど)。

さて、そんな超レアなカミキリムシを本当に採れるのだろうか?

当然、私は全く採る自信がない。というか、あまりに遠い存在なため、それを採りに行くということすら実感が湧かない。オオクワガタ、そしてネキダリス以上に何光年もあろうかという果てしない「距離」を感じてしまうのである。まあ、そもそもど素人なのだから仕方ないか...。

しかし、「千里の道も一歩から」。採集地へ出かけなければ、一生採れないわけで、今回は採集地の雰囲気を味わう目的で訪れることとした。

ということで、時期的にはちょっと早いかもしれないが、オオトラカミキリの生息地を第一に下見し、時間があれば他のカミキリの探索へ行こうと思う。


● 山梨県

早朝4時30分に家を飛びだし、高速道の入り口を目指す。

この時間、道路はどこも閑散としたもので、あっという間に高速へ乗ることができた。

そして、最寄りのインターを降りた後、下道を軽快に走り抜けポイント近辺に到着した。

事前のポイント情報にて、だいたいこの辺ということは分かっているため、まずはそこを特定すべく探索を開始した。

車を走らせながらオオトラカミキリのホストの一つである「モミ」を探す。

しばらくはスギやヒノキの植林が続くが、いきなりモミの小群生地帯が現れた。

っしゃ!

きっとここだろう。直感だが、ここがそのポイントであると即座に感じ取れた。

とりあえずここらしいということは分かったので、このポイントの詳しい探索は後回しとし、他にもモミの群生がないかどうか調べておくことにした。

標高を上げる方向へ車を走らせ、途中で数本の枝道へ入るもロクな場所がない...。

う〜〜ん、景色はきれいだ。

台風の影響は皆無であり、天気もすこぶる良い。


ふと見つけたゴマダラカミキリ。

採集せずに、そのまま放置。

[ Anoplophora malasiaca (THOMSON, 1865) ]


ん!、クワの葉裏にもう1頭。

でも、なんかおかしい。


やはり、弁慶型死骸...。

結局、2時間ほどかけて丹念に探してみたが、良さそうな場所は1ヶ所だけ...。

かなり魅かれるモミのポイントであったが、残念なことにアプローチするのが極めて困難そうなため諦めざるを得なかった...。

時間がもったいないので、さきほどのポイントへ戻る。

早速、路肩に車を停め、モミのルッキングを始めた。


● モミ

細いのから大木まで、様々な樹齢のモミが生えている。

まあ、モミ、モミと言ってもぴんと来ないかもしれないが、要はクリスマスツリーの木である(それでもぴんと来ない方には申し訳ない...)。

立派なモミ。


念のため葉を確認する。


葉裏のアップ。

モミはモミだが、葉裏が白いので「ウラジロモミ」と思われる。

おそらくこれでも大丈夫だろう(根拠なし...)。

オオトラカミキリの幼虫は、このモミの生木を食い、木を枯らすのである(害虫と言われる由縁)。

とりあえず、オオトラカミキリの痕跡、つまり成虫の羽脱孔やむき出しになった食痕を探してみよう。


● オオトラカミキリの痕跡

さて、1本1本舐めるようにモミの樹幹を見ていく。

すると、至る所に刃物で傷つけられた跡があり、そこから樹液(=ヤニ)がだらだらと流れ出ている。

きっと過去に採集者が付けたものだろう。

いずれにしても、キズの有無にかかわらず、ヤニの出ているモミが多いポイントだ。

まったく健康な木からはヤニなど出ないだろうから、何らかの要因があるはずである。

そして、腰ぐらいの高さに小さな「孔」が2つ開いているのを発見した。

う〜〜ん、これは図鑑で見た「オオトラの脱出孔」とそっくりだ。

以上のような痕跡からも、オオトラの産地である可能性が高いと思われる。

この脱出孔に関しては、その後のルッキングにて腐るほど見つけることができた。

ここにも


そして、ここにも


どこにでも


見つかるのだ

ただ、単独採集なため、これが本当にオオトラのものかどうかの確証は得られないが、ポイント情報、至る所に見られる脱出孔、刃物による樹幹のキズなど、ここまで状況証拠が揃えば疑う余地はないだろう。

さあ、時間はもうすぐ12時。

オオトラの活動時間は一般的に午後であるらしいので、これからが正念場だ。

軽く昼食を済ませた後、片っ端から再度モミを見ていくことにした。

大量に飛来するやぶ蚊に辟易しながら、1本、また1本と樹上から根元までを眺める。

端から見たら「木と向かい合って何度も大きく頷いている危ない人」と思うことだろう。

しかしながら、どこにも大型のトラカミキリは見当たらない...。

一通り見ていくのに約1時間、途中で休憩をはさみながら2巡、3巡と繰り返す。一体何本のモミを見ただろうか?

おそらくのべ数百本は見ていると思う。

もう、むち打ち症のように首が痛くてしょうがない...。

う〜〜ん、さすがに疲れた。ここで他のカミキリを探しに別ポイントへ移動しようかとも思ったが、それすら億劫になってきた。

まあ、敢えて自力採集を目指しているのだから、このぐらいでへこたれていてはどうしようもない。さらに首にムチを打ちながらルッキングを続ける。

まるで「ルッキングロボット」のように単調な作業に没頭していると、ある一台の車がやってきて中から人が降りてきた。私よりも幾つか歳の若い青年だ。

すると、キョロキョロしながら私のいる斜面へ近づいてきた。

私と目が合うと、「どうですか?」と聞いてくる。

『え?』、こんな場所でどうですかと聞いてくるのはムシ屋以外にいないだろう。

「オオトラですよね?」

やっぱりカミキリ屋だった、そして、この瞬間にここがオオトラポイントであることが自動的に判明した。

『そうです、ぜんぜん駄目です』

「もうひとつのポイントで一個採れましたよ、♂が」

なんと、そりゃあすごい!、モミの部分枯れから割り出したそうである。

早速、そのオオトラを見せていただいた。

図々しく、写真まで撮らせていただく。

うお〜〜、カッチョイイ!

初めてオオトラカミキリの実物、それも生体を見ることができた。

その貫録、その存在感、あまたのカミキリ屋が追い求める理由が分かる。図鑑とは大違いの迫力である。

とりわけ、不自然にデカイ前胸背が「アンバランスフェチ」な私の心をぐぐっと引きつけてならない。

はっきり言って「一目惚れ」状態だ。

これでも小粒とのことだが、今までこんな大きなトラカミキリを見たことがないので、私にとってはケタ外れの大きさに映る。

それにしても、スズメバチにそっくり。

ここでお名前を聞くと、なんと昨晩読んだ採集記を書かれたKANさんご本人であった。

これは滅多にないチャンスなので、ここまでのルッキングで限界に達したことを話し、オオトラ採集についていくつか尋ねてみることにした。

すると、材の選定方法、オオトラの産卵、幼虫の食痕などなど、快く教えていただき大変勉強になった。

先ほど見つけたこの食痕も、まさにオオトラのものであるという。

ただ、この木が若いときにつけられた食痕とのことだ。

KANさんによれば、オオトラは枝に産卵し、孵化した幼虫は枝の中を幹に向かって食い進むそうだ。

さらに、幹を下方へ食い進み、最後に「の」の字を描くように回転し、その中心で蛹室を作るという。

オオトラに食害されているかどうかを判断するコツとしては、脱出孔があるか?、枝先が枯れているか?、ヤニが出ているか?、などに注目すると良いそうである。

後に気づいたのだが、これも古い食痕なのかな?

いずれにしても、♂が羽脱していない状況なので、まだちょっと時期的に早いかな、ということであった。

ここで、お礼を言ってKANさんと別れる。

その後も駄目元でひたすらルッキングを続けたが、結局オオトラを発見するには至らず、今回は敢え無く惨敗宣言をすることに。

そして、再度ここでリベンジすることを誓い、ポイントを後にするのであった。


● エピローグ

予想通りの惨敗。

しかし、オオトラ採集経験者のKANさんと出会うことで、1回目にしてかなりの収穫があったと言える。

現地でのアドバイスほど強力なものはない。

本当にありがとうございました。>KANさん

まあ、採集地へ行くまでは「自分がオオトラの採集を試みる」など実感すら湧かなかったわけだが、今回実際にやってみて、そして実物を見せていただいて、なんとなく「オオトラって本当にいて、頑張れば採れるものなんだ」と思えるようになった。

もしかしたら、採集も「夢ではないのかもしれない」と錯覚するほどに...。

う〜〜ん、次回も頑張ろう。


★★ 採集成績 ★★

ボ〜ズ


記載日:2001.08.20
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