2001年度 採集記(山梨県 カミキリ編 -2-)

アティミア [ Atimia okayamensis HAYASHI, 1972 ]

表題の通り、今回のターゲットは「アティミア」と呼ばれるカミキリムシである。

正式な和名を「ケブカマルクビカミキリ」といい、アティミアなる愛称は学名の Atimia okayamensis に由来している。

また、本種のホスト(寄主植物)は「ネズミサシ」あるいは「ネズ」というヒノキ科ビャクシン属の針葉樹であることが知られている。そして、成虫の出現期は3〜5月と10〜12月の2シーズンであるという。

なぜ秋と春の2回シーズンがあるのかというと、秋に羽脱した成虫はそのままネズミサシの樹皮下で越冬し、翌春に交尾と産卵を行うためだ。つまり、採集者側から見れば、この時期に採り逃したとしても、半年以内に再度採集の機会が訪れるということになる。

さて、そのアティミア、サイズは10ミリ以下とかなり小粒だが、体色は渋い灰色地に上品な黒い小円斑紋が鏤(ちりば)められ、まさに「玄人好み」のカミキリムシと言えるかもしれない。

当然、私は今回が初挑戦だ。

さあ、果たしてアティミアをゲットすることができるのだろうか?



2001.11.03 (Sat)

山梨県 某所

   天気:曇りのち雨
   気温:15.4 度
   湿度:72 %
   風力:2(軽風)
山梨産カミキリ、アティミア編

● せっかくの休日だが...

いつもなら第1土曜日は何らかの理由でつぶれることが多いのだが、今月は幸いにも「文化の日」ということで祝日だ。さすがに私の予定も暦通りに休みである。

1年に何回あるか分からない貴重な「用事のない」土曜日であり、これは採集へ行っておかないともったいない。

というわけで、ツヤハダでも採りに行こうとあ〜さんを誘ってみた。が、あいにく先約があるとのことで、今回は残念ながら同行できない。また、相棒も仕事のため都合がつかず、結局、単独で行くことにした。

さて、何を採りに行こうかということになるのだが、たった一人でツヤハダを割りに行くのもなんである。クワガタをやらないのなら、やはりカミキリムシか、「むむむ」としばし文献などを斜め読みしていると、「アティミア」という文字で一瞬視線が止まった。

そう、アティミアこと「ケブカマルクビカミキリ」は、この時期に成虫で採集できる数少ないカミキリムシで、一度は採ってみたい種類であったのだ。忙しさにかまけて、すっかり忘れていた...。

なお、少し前に採集した「ケブカヒラタカミキリ(通称ノトリナ)」と名前が紛らわしいが、完全に違う種類である。

冒頭でも書いたように、本種は「ネズミサシ(ネズ:杜松)」という一風変わった名前を持つ針葉樹にその生活を依存したカミキリムシだが、当の私自身、そのネズミサシを見たことがない。

ちなみに、ネズミサシという名前は、葉をネズミの通り道に置いておくと葉が鋭く尖っているため、ネズミが近寄れないということに由来しているそうだ。

まずは情報収集ということで、植物図鑑やカミキリニュースなどの文献を読みあさってみた。

そして、とりあえず、ネズミサシがどんな感じの樹木であるかということ、山梨県に知られたポイントがあるということ、晴れた日でないとなかなか採れないということまでは情報として得ることができた。なかでも気象条件が極めて重要らしい。

さて、そのキーとなる天気であるが、ここ1週間晴れていたにもかかわらず、土曜日は曇りで午後からは雨が降るとの予報だ。なんというタイミングの悪さであろうか...。

せめて1時間でもいいから晴れ間が見えてくれれば...、一縷の望みにかけ東京を離れることにした。

まあ、何はともあれ、こればっかりは行ってみなければ分からない。


● 前途多難

下道を順調に走り続け、まずは中央自動車道へ乗ろうと思ったら、なんとのっけから渋滞だ...。

これは先が思いやられる。

う〜〜ん、目的地まで何時間かかるのだろうか?

この時点で大月インター手前の渋滞が「4キロ」であった。これをパスするにはそれなりの時間がかかると踏んで、トイレ休憩をとることにした。渋滞の中で我慢できなくなったら一大事だ。

かなり手前のPAで用を足し再び本線へ出てみると、ああああ、渋滞があっという間に「6キロ」に延びてしまっているではないか。PAにいたのは、ほんの数分なのに...。

時折襲う睡魔と格闘しながら、なんとか渋滞を乗り切り、やっとのことで最寄りのインターチェンジを降りることができた。ふぇ〜〜、ここまで長かった...。


● ネズミサシ

ここからはネズミサシの探索になるのだが、幸い事前に詳細なポイント情報をKANさんから得ている。今回の採集行は既存ポイントを勉強することが主な目的であり、完全な「教えて君」に徹することとした。

情報ありがとうございました。 >KANさん

というわけで、まずは一番手前のポイントを探してみる。

この辺りの植生は、針葉樹が幅をきかせている。

私が判別できるものだけでも、アカマツ、カラマツ、モミ、ヒノキ、ヒマラヤスギなど数多くの針葉樹が壮大なスケールで林立している。

なかでもアカマツが最も多くみられ、ノトリナ(ケブカヒラタカミキリ)は確実に採れると思われる。

紅葉も真っ盛りだ。

さらに、一斉に淡い黄色をまとったカラマツ林がこの上なく美しかった。カラマツは針葉樹では珍しい「落葉高木」なのである。

さて、そろそろ第1ポイントへ到着だ。目印となる交差点に車を停め、早速、ネズミサシを探してみる。すると、いとも簡単に見つかった(情報もらってるんだから、当たり前だ...)。

これがネズミサシだ。

ぱっと見はなんか「もっさり」としていて、アメリカの漫画に出てくる「オバケ」にも似ている。私はウルトラマンに出てきた「ザザーン」という怪獣を思い浮かべてしまった。

ネズミサシをさらに細かく観察してみる。

葉の外見上、一般にマツ科の樹木は葉が上を向いて生えており、総じて「元気がある」印象を受けるのだが、一方のネズミサシは全体的に葉が下を向いているため、こちらは「やる気のなさ」がにじみ出ているといった感じだ。他の常緑針葉樹に比し、葉の色もやや黄色味が強いと思う。

加えて、せいぜい10メートルほどの常緑低木〜小高木であることから、多数の針葉樹の中にあっても、逆に目立つ樹種と言えるかもしれない。ただし、私が見た範囲において、一ヶ所に生えている本数はそんなに多くない。

これは葉のアップ。


そして樹皮のアップ。

天気は曇り、気温は14度とあまり良い条件ではないのだが、とりあえずスイーピングを開始した。

しかし、針葉樹のスイーピングというのも正直違和感を感じる。なぜなら、針葉樹を探すこと自体がクワガタをやっていた頃からは想像もつかなかったことだし、さらにその中でもマイナーなネズミサシという針葉樹の葉をスイーピングするのだから無理もないだろう。

人生というものは何があるか分からない。

ただ、針葉樹のスイーピングはけっこうやりにくく、網があっちこっち引っ掛かって今にも破けてしまいそうだ。コツとしては日当たりの良い場所を狙ってスイープするといいらしいのだが、なにしろ日が出ていないのだからどうしようもない。

さて、大方の葉を掬ってみたが、案の定何も採れない。網に入ってくるのは、大量の枯れ葉、大量のクモ類、ガ、テントウムシ、ハサミムシ、見たこともない気持ち悪いムシなどだ。

ここは諦めて次のポイントへ行くことにする。

第2ポイントはすぐに見つかり、ここでもがむしゃらにスイープしてみたが、結果は×であった...。やはり気象条件が悪いのか?

それ以前に、野外活動のシーズンが10月末ぐらいまでなので、けっこう微妙な時期でもある。もっと早く時間を見つけて来れば良かった。

さらに先へ行く。情報では「信号のない交差点を左折して、T字路の手前、ここのネズミサシは有望」とあるのだが、最初の目印となる信号のない交差点がよくわからない。

適当に走っていればそのうち見つかるだろうと、ここからは自分の判断でポイントを探す。

その矢先...。

おおおおっと、あの針葉樹はなんでありましょうか!(古舘伊知郎風に)

じゃ〜ん、立派なネズミサシ。

見るからに「もっさり」している。

初めて自分で見つけたネズミサシに勢いよく網を伸ばす。

そして執拗に網をジャイヴする。

が、残念ながら本命はネットインしないようである...。

晴れていれば採れたのだろうか?、う〜〜ん、何とも言えないが天気が恨めしいことだけは確かだ。今にも雨が降り出しそうな空を見上げながらそう思った。

その後も、こんな林道に入ってみたりしながら、ひたすらネズミサシを探し続けた。


これはあるポイントで見つけた「モミ」。

異様な食痕やヤニの流出がみられ、怪しい雰囲気を醸し出す。

う〜〜ん、このエリアはなかなか奥の深い環境である。私が普段採集をしている「茨城県」など逆立ちしてもかなわない。生物を包み込む容積そのものが桁外れだ。

再び車で道を流していると、斜面の上の方にネズミサシらしき樹影が見えた。ここまでくると、もう見間違えることはない。かなりの確率でネズミサシのはずだ。

斜面には人が入った跡があり、ここが情報にあったポイントの可能性が高い。

何重にも錯綜する枯れ枝を掻き分けながら、根元まで歩み寄り、無心にスイーピングを試みた。

夢中になって上を眺めているため、予想外の方向から枝に頬を引っ掛かれたりして痛い。

場所を変えつつネズミサシへジャイヴに次ぐジャイヴを食らわす。しかしながら、ネットの底には虚しく外道の嵐が吹き荒れるばかりであった...。

この近辺には合計4本ほどのネズミサシがあり、それらすべてを掬いつくしたが、とうとう本命の姿を拝むことはできなかった。

その後、予報通りの雨が降り始める。

う〜〜ん、誠に残念だがこれにて流局...。


● エピローグ

今回は成虫ゲットならずであったが、ネズミサシの実物を観ることができたので最低限、来た甲斐はあっただろう。

肝心のアティミアの生体写真は来季以降のお預けだ。いずれにせよ、ぜひともこのサイトにて紹介したいと思う。

最後に、アティミアの大きさは図鑑によると「5.5〜8.5ミリ」となっており、かなり小さい。現場ではあまり意識していなかったのだが、要するにクワガタでいえばマダラクワガタ並の極小サイズということだ。

もしかしたら、本日も採っていながら捨ててしまった可能性がなきにしもあらず...。

むむむ、次回は気をつけないと。


★★ 採集成績 ★★

ボーズ


記載日:2001.11.05
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