2002年度 採集記(神奈川県 ホソツヤ編 -1-)

大先輩の胸を借りて

今回の採集行は、かなり贅沢な「特別編」。

と言うのも、あの「ホソツヤルリクワガタの発見者」である大先輩、その名もP.Kawadaiさんとご一緒させていただける採集行なのである。

さらには、新進気鋭なカミキリ新人類のKANさん、ホソツヤ初ゲットに燃える THE INSECTER びおすけさん、そしてホソツヤ大好きな我が相棒というまたとない豪華メンバーで出撃することになったのだから胸躍らないわけがない。

とにもかくにも「貴重なチャンス」、大先輩の胸を借りるつもりで久々のホソツヤ採集を堪能したいと思う。



2002.11.03 (Sun)

神奈川県 某所

   天気:快晴
   気温:氷点下(多分)
   湿度:非計測
   風力:5以上
神奈川県、極寒の地をホソツヤ隊が行く 編

● 一番乗り...

今回の採集は本当に待ちに待ったということもあり、普段は寝起きの悪い私も、この朝だけは目覚ましが鳴る直前に「パシっ」と開眼した。

寝ている状態を「0」、起きている状態を「1」とすれば、まさに0から1へつなぎ目のない「デジタルな覚醒」であった。

起きるやいなや私の心臓は自ら鼓動の速度を増し、これから始まる採集行への緊張感と期待感がいやが応にも高まってくる。

ということで、妙に落ち着かない足取りで車へ乗り込み、日の出前に東京を脱出した。

薄暗い中、キンキンに冷えた空気を切り裂くように高速道を走り続ける。

で、あっという間に待ち合わせ場所へ到着してしまった...。

約束の1時間半前ということもあり、当然、一番乗りだ...。

まあ、早く着いたのは良いのだが、とにかく寒く、車の外に出る気にはなれない。

エンジンをかけっぱなしにして、車内にて皆の到着を待つことにした。

マジですか?、という気温だ...。

新聞を隈無く読み尽くし、そろそろ誰か来るかな?という時間になったので、外へ出てみると、私のやや後方で びおすけさんが右往左往しているのが見えた。

びおすけさんとしばらく談笑していると、P.KawadaiさんとKANさんの乗った車が颯爽と登場した。

その後、朝の渋滞に巻き込まれた相棒が最後に到着して本日のメンバーが勢ぞろいした。

P.Kawadaiさんはどんな方なのだろうといろいろ想像を巡らせていたが、「組長」の別名のごとく声が大きくて恰幅が良く、確かに「親分肌」な感じの方であった。

「本日はお願いします」、各自の自己紹介と採集準備を整えた後、5人でポイントへ向けて出発した。

びゅ〜〜んと標高を上げ、とりあえず尾根に到着したものの、そこでは下界とは大いに異なる厳しい気象条件が我々を待っていた。

極寒の中、斜面の下の方からは凄まじい勢いで風が吹き上がってくる。

それこそ「人間の吹上げ採集」ができるほどの勢いだ...。

その強風に乗ってガスも流れてくるが、ガスったり、晴れたり、ガスったり、晴れたりと早送りのビデオを見ているように辺りの状況が目まぐるしく変化するのである。

自称「やや変温動物」な私には極めて酷な条件だ。

どれだけ耐えられるだろうか?

ともかく、先が思いやられる...。

が、そんな寒さと強風も何のその。

我ら「ホソツヤ隊」は逞しくポイントを目指す。

う〜〜む、そうでもないか...。

ぬかるむ地面に足を取られながら、ひたすら歩く。

それなりの植生に入った辺りで適当に枯枝を拾ってみると、ホソツヤの産卵マークが付いていた。

材の腐朽状態からは、いかにも入っていそうな感じである。

ということで、早速、削ってみる。


が、予想に反し、出てくるのは幼虫だけであった...。

残念...。

私の材発見をきっかけに、この周辺にて採集を開始しようということになったが、誰も成虫を出すことができなかったため、もう少し標高を稼ぐ。

登山道を上りながら、各自、思い思いに材を削り始めているようだ。

しばらくすると、遠くの方からP.Kawadaiさんと びおすけさんの声が聞えてきた。

どうやら、ホソツヤの成虫が採れたらしい。

私もがぜんやる気が湧き、その勢いでやっと産卵マークの付いた材を発見することができた。

これは地面に半埋没していたコルリ材。

いの一番でコルリを出してやろうと息巻いて削ってみたが、これまた幼虫だけであった...。


気分転換に割ってみたマダラ材からは、コメツキムシの幼虫に食われているマダラクワガタの幼虫が...。

のど笛に食らいついている...。

う〜〜む、「弱肉強食」なのね...。

一通り斜面を見てしまったので、とりあえず皆のところへ戻るとしよう。

材に群がるホソツヤ隊。

状況を聞いてみると、この時点でP.Kawadaiさんが数頭、びおすけさんと相棒が1頭ずつ、そしてKANさんがなんと6頭ものホソツヤを割り出しているという。

やばい、私だけボ〜〜ズじゃないか...。

ああああ、ちょっと焦ってきた。

ということで、さらに標高を上げ、別のポイントにて材を探してみることにした。

しばらく彷徨っていると、とても美味しそうな「アブラチャン」が向こうの方に見えてきた。

それはもう、冬山で遭難して散々彷徨った挙げ句、やっと小屋の明かりが見えてきたような気持ちだ。

さあ、どうだ。

手前にある枯れた材を手に取ってみると...。


くっくっく。

ビンゴかも。

ただ、湿度がかなり高いため、ホソツヤには向いていないかなぁ。

そんな半信半疑な気持ちで材を崩していくと...。

っしゃ〜〜〜!!

出た〜〜〜〜!!


ひゃっほ〜〜。


おまけ...。


シリアカデオキノコムシ。

[ Scaphidium rufopygum LEWIS ]

ふっ〜〜〜、これで一安心。

心にも余裕が生まれてきた。

出てきた幼虫(ホソツヤ、カミキリ)を向こうから歩いてきたKANさんへ託し、別の材を探しに行く。

軽い足取りで笹ヤブを歩いていると、比較的日当たりの良い斜面にて再び絶好と思われるウツギ類の立枯を発見した。

先端部のほど良く朽ちた部分を崩していると、「パカっ」と勝手に割れてしまい、その瞬間、信じられない光景が目の前に広がった。

わ〜〜お!

まるでホソツヤのトライアングル。


手前の1頭にズ〜〜ムイン!!

う〜〜ん、この「赤い腹」がたまらないのよね。

けっこう太目の立枯であり、一人では大変なので、近くにいたKANさんとともに残りの部分を削っていく。

もう一丁!

KANさんも立て続けに4♀♀を出され、私と合わせ合計9頭も入っていたことになる。

採集下手な私には珍しく、これは「当たり材」であった。

う〜〜ん、最高な気分だ。



ホソツヤルリクワガタ
[ Platycerus kawadai FUJITA et ICHIKAWA, 1982 ]

途中、タンナサワフタギの衰弱木に開いているヘリウスハナカミキリの飛孔をKANさんに教えてもらい、大変勉強になった。

その後、適宜材を選びながら徐々に標高を上げ、相棒と一緒にピークへ到着した。

すると、他の3人はこの周囲で採集をしているようなので、ここらでちょっと遅めの昼食をとる。

いつも思うことだが、山での食事は何故だか美味い。凍る寸前まで冷えた飲み物も、ほど良く汗をかいた体には最高だ。

しかし、そんな至福の一時もあっという間に凄まじい寒風により終止符を打たれる。

あまりの寒さに、ほんの数分動きを止めただけで体が凍りついてしまいそうだ...。

小刻みに体を震わせながら待っていると、P.Kawadaiさんが戻ってこられた。

いろいろとお話している最中、突如「こんな材がいいんだよ」と目の前にあった枯枝を手に取られる。

それは普段の私なら確実に無視する類いの見た目がしょぼい材であった。

が、目を近づけてビックリ...。

ひえ〜〜。

産卵マークがこれでもかってくらい刻まれている...。


げげ、それも至る所に...。

いや〜〜、見事なまでの職人芸的観察眼。

私が言うのも僭越であるが、本当にさすがである。

隣にいた びおすけさんとともに「仰天」してしまった。

そして、ムシ採りにはいかに「経験、年季」が重要であるかを思い知らされた。

実際、この材を削ってみると、ちゃんと1♂出てきた...。

時を同じくして全員が集合。

この後は、来た道を引き返す方向で採集していくことに決まった。

しかし、この時間になってくると、さすがのメンバーも疲労の色が隠せないようで、成果のほどは今一つであった...。

というわけで、揃って無事に下山。

うんざりするような大渋滞を越え、高速のサービスエリアにて全員で夕食。

食後には「にわか甲虫談話会」が開催され、時間を忘れるほど大いに盛り上がった。

次回またご一緒しましょう、ということでP.Kawadaiさん率いる「臨時ホソツヤ隊」は解散となった。

いや〜〜、寒かったが、本当に楽しかった。


● エピローグ

ムシ採りを始めて足掛け5年、素人ながらコツコツとムシを採ってきたが、まさか学名に自分の名前が付いている方と同行させていただけるとは夢にも思わなかった。

非常に貴重な経験であり、一生の思い出に残る採集行であった。

今後も機会があればぜひご一緒させていただき、ムシの探し方やムシに取り組む姿勢を学ばせてもらいたいと思う。

本当にありがとうございました。

そして、お疲れさまでした。


★★ 採集成績 ★★

ホソツヤルリクワガタ 4♂♂3♀♀
[ Platycerus kawadai FUJITA et ICHIKAWA, 1982 ]

シリアカデオキノコムシ 1 ex.
[ Scaphidium rufopygum LEWIS ]


記載日:2002.11.05
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