2002年度 採集記(海外採集編 -2-)

吹上採集

前回の採集記にて初日の灯火採集の模様を書いたが、今回訪れた Trus madi 山のポイントでは「吹上採集」というもう一つの代表的な採集方法がある。

吹上採集とは、見晴らしのよい切り立った尾根筋にて網を構えて立ち、斜面の下方から上昇気流に乗って吹き上がってくる昆虫を捕らえるというものだ。

一見、単純明快な方法で簡単そうに思えるが、実はなかなかテクニックのいる採集法なのである。あるものは風に身を任せて「ふわふわ」と漂い、またあるものは「ビューン」と弾丸ライナーのように飛ぶ。さらには、その飛翔高度も種類によって様々な傾向がある。すなわち、採集者側はそれぞれのムシの飛翔パターンに合わせてタイミングと距離を測らねばならないのだ。

当然、絶妙なタイミングでムシをネットインさせたときの喜びは計り知れず、昆虫採集の醍醐味を大いに味わうことができる。ある意味、これが採集の原点ではないかとも思う。

さあ、一夜明けた2日目、いよいよ「吹上採集」にトライする。



2002.04.11 (Thu)〜
2002.04.15 (Mon)

マレーシア サバ州
(ボルネオ島)
Trus madi 山麓

外国産甲虫、灼熱の熱帯雨林@究極の「ボルネオ」 - パラダイス編 -

● 広大なジャングル

昨晩の興奮も冷めやらぬうちに朝が来た。

時間はまだ6時半だが、周囲はすでに明るくなっている。

おおおおおっ、外は晴れているぞ!

早く外の景色を見てみたい。そんな一心でテントの外へ這い出た。

わ〜〜お、山の稜線から眩しいほどの「朝陽」が昇っているではないか。

たったそれだけのことで無性に嬉しくなった。

さあ、周辺はどんな環境なんだろう?

うお〜〜、ジャングルだ。


それも、生えてる木がみんな熱帯系じゃないか。

至極当たり前のことだが、本当に感動してしまった。

昨晩出会ったムシ達は、ここから飛んできたんだなぁ。

まるで無邪気な子供のように、意味もなくその辺を興奮して歩き回る。

う〜〜ん、壮大なスケールで、延々とジャングルが続いている。

向こうに見えるのが、Trus madi 山のピークかもしれない。

ちなみに、ここの標高は1,200mほどで、けっこうな高地だ。


奥にあるのが我々のテント。

ぱっと見はしょぼいが、高床式になっており、非常に快適な寝床を提供してくれる。

ちなみに手前のテントには、ガイドや採り子達が寝泊まりしている。


灯火の幕面を見てみると、大きなセミがまだ残っていた。

ボルネオのセミかぁ....。

またまた意味もなく感動。

昨日は辟易していたクセに...。


ん!、足下の草にもセミがいる。

しつこいって...。


これはコオロギか?

仲良くペアで同じ方向を向いている。

ちょっと散歩しただけでも、簡単にムシを見つけることができる。

ってセミとコオロギだけじゃないか...。


しばらくして、みんなが起きだしてきた。

朝っぱらから満面の笑顔をたたえ、ガイドがこちらへ歩いてくる。

「Good morning !」と声をかけると、マレーシア語で挨拶を返してきた。このときはちゃんと教えてもらったのだが、もう忘れてしまった...。

日中の予定はどうするのかと聞いてみたところ、このキャンプからさらに標高を上げた場所で「吹上採集」をするという。

ふ〜〜む、吹上採集ねぇ...。

今まで話には聞いていたが、何を隠そう、まともに吹上採集をやるのは今回が初めてだ。そんなド素人でもうまくムシが採れるのだろうか。ちょっと心配になる。

が、何事も挑戦。初めての吹上採集がボルネオとは景気がいいじゃないか。頑張ってみよう。

さて、朝食までは少々時間があるため、昨晩の成果を見てみることにした。

モーレンカンプオオカブト。

昨晩、多数飛来していた大型のカブトムシだ。

とにかくでかく、足が長い。

よし、何の脈絡もないが「モーレンカブちん」と命名しよう。


ただ、標本用に日本へ持ち帰るとなると、かなり嵩(かさ)張る「空間泥棒」なムシでもある。

それこそ、小型カミキリの20〜30頭分の容積があるため、こいつらの採集は必要最低限にしておこう。


これは多分、モーニッケノコギリクワガタかな。

なかなか渋いクワガタである。

[ Prosopocoilus mohnikei PARRY,1873 ]

そして、これは比較的珍しいと言われるマーチンホソアカクワガタ(♀)。

残念ながら♂は得られなかった。

[ Cyclommathus martinii LACROIX,1989 ]

そうこうしているうち、朝食の準備ができたようだ。本日のメニューはフライドエッグの乗った塩ラーメン風の薄味ヌードルだ。質素な料理だが、なかなか美味しかった。

さあ、採集準備をしよう。

ボルネオのジャングルには「ヒル(蛭)」がいると聞いていたため、念のため「忌避剤」を長靴にスプレーしておくことにした。

この薬は「ヤマビル研究会」のご好意にて、モニター的に使用させていただいているものだ。

ありがとうございました。

このように「ヤマビルファイター」を噴霧する。

白く見えるのがそうである。

主成分は「ディート」であり、蚊など他の害虫にも効果があるとのことだ。


● 吹上げポイント

午前9時、すべてのメンバーの準備が整った。

いざ出発だ。

ピックアップトラックでガリガリと悪路を上がり、5〜6分でポイントへ到着した。

おおおお、ものすごく見晴らしのいい高台だ。

眼下には切り立った絶壁と、原生林が見える。

この崖の下からムシが吹き上がってくるのかぁ。

これから始まる初体験に、心地よく緊張感が高まる。

すると、いつの間にか採り子たちが焚き火を始めていた。

何で焚き火なの?

後でその理由を知ったのだが、どうも煙でムシを追い出すためのようだ。

なるほど。

風向きを調べているのか、烽火(のろし)を上げているのかと思った...。

さあ、私も準備OK。

いつでも飛んできやがれ!

各人が等間隔で尾根筋に並び、レーダーのように規則正しいペースで左右に視線を振る。

が、気合いは十二分に入っているものの、なかなかムシが飛んでこない...。

どうもまだ時間が早いようだ。

ちょっと拍子抜けしてしまったが、気を取り直してしばし周辺のルッキングに乗じる。

この辺は本当にバナナが多い。

面白いことに、この立ち枯れには「アリ塚」が形成されている。

このような材からは、運が良ければツメカクシクワガタという「珍な」クワガタが採れるそうだが、あいにくオノを持っていないので断念...。
その他、様々な植物を見て回り、随所でスイーピングを試みるもスカに終わってしまった。

ふと時計を見ると10時を回っていた。だんだん日差しも強くなってきたので、そろそろ戻るとしよう。

尾根筋に戻ってみると、相棒は相変わらず同じ位置に立っていた。

「飛び始めてますよ」

そうか、その一言で緊張が一気にピークへと達した。

と、その瞬間、私の頭上を「ふわふわ」とスローペースで何かが通り過ぎていくのが見えた。そよ風に舞うタンポポの種にも似ている。

条件反射でネットを振ると、ラッキーなことにネットインしてしまった。

猛スピードで網をたぐり寄せ、中を確認する。

っしゃ〜〜、カミキリや!

初の吹上採集は、あっけなく成功を収めた。

こりゃ楽しいぞぉ。

飛んでる飛んでる!
喜びに浸るのもつかの間、さらに黒い影が目前を横切る。

うっしゃ〜〜!!

またカミキリだ。

ん?、手のひらに乗せると「擬死」の体勢になった。

腹側からも撮影。

とてもエレガントなカミキリである。

眩しいぐらい、深紺の地に黄色が映える。
さらにその約10分後、高速接近してくる影をすかさずネットイン。

古代文明の壁画のような模様をもつハナムグリであった。

思わず手が「わなわな」と震えてきた。

吹上採集って、なんて楽しんだろう。
相棒と採り子達もびゅんびゅん網を振り回している。

まさに昆虫採集、爽快な光景だ。

とりわけ採り子達の腕は絶妙であり、目を見張るものがある。採り逃がす回数が極端に少ない。少なめに見積もっても打率8割バッターぐらいの実力だ。

と、はるか向こうから、まさに「弾丸ライナー」のような軌跡を描いて飛んでくる甲虫を発見。うおおおお、なんかグリーンメタリックだぞぉ。太陽光を受けてピカピカ光っている。

一番左に位置していた採り子が「イチロー」のようなスーパースイングでカウンターを浴びせる。

やった、採ったぞ、ジャストミートだ。すげぇ〜〜。

相棒とともに採り子のもとへ歩み寄る。

うああああ、めっちゃ綺麗なハナムグリだ。

アウリペスヒレアシハナムグリというそうで、ボルネオでは普通種らしい。

とにかく飛翔速度が速く、これを普通に採れれば一人前といったところだろう。
[ Pseudochalcothea auripes ]

ということで、以下に他のメンバーが採集した甲虫を含めて紹介する。

とりあえず、何も考えずに、どんどんスクロールしてほしい。

トラカミキリ系 -1-

by 相棒

トラカミキリ系 -2-

by 採り子

糞虫系

by 採り子

カミキリ

by るどるふ

前脚の長いカミキリ

by 相棒

ハンミョウ

by るどるふ

グリーンメタリックなコメツキ

by 採り子

ビビッドカラーのコガネムシ

by るどるふ

またまた渋いハナムグリ

by 採り子

クスベニカミキリ系 -1-

by 採り子

リンゴカミキリ系 -1-

by るどるふ

タマムシ

by 相棒

トラカミキリ系 -3-

by 採り子

触角が面白いカミキリ

by 相棒

リンゴカミキリ系 -2-

by るどるふ

美麗カミキリ

by 採り子

巨大ミツギリゾウムシ

by 採り子

トラカミキリ系 -4-

by るどるふ

不思議なカミキリ

by るどるふ

燃えるように赤いカミキリ

by 採り子

クスベニカミキリ系 -2-

by 相棒

大型トラカミキリ

by 採り子

古代文明系ハナムグリ

by るどるふ
ふぅ〜〜〜、ざっとこんな感じである。

これでもほんの数時間の成果なのだから、まさにムシの「パラダイス」と言えるだろう。

それはもう、底知れぬバリエーションの多さであり、同じ種類のムシを採るほうが大変だ。

とりわけ、灯火採集で見られるムシよりもビビッドでカラフルな種類が多いことが興味深い。

そういえば、ちょっと前の日記に、日本のムシは熱帯地方の原色調でド派手なムシに比べ、控えめながらも素晴らしい「美しさ」を秘めている、なんていう内容の文章を書いたが、いやいやド派手なムシもいいものだ。

さて、正午を過ぎた段階で甲虫の飛翔が鈍ってきた。ここで再び周辺のルッキングへ切り替えることにした。

灼熱の日差しが照りつける下、植物の葉や幹を観察していく。

どれだけ古いものかは分からないが、道沿いには伐採された材もそこそこ転がっている。

しかしながら、思いの外「花」は少ない。出発前には花に群がるカミキリの姿をイメージしていたので、これは意外だった。

いずれにせよ、尾根筋ではあれだけのムシが飛んでいたのだから、この辺にムシがいてもおかしくないはずである。

おや?、何かいるぞ。

葉の裏側に止まっており、逆光のなか長い触角のシルエットが確認できる。

わ〜お、カミキリムシだ。

急いで網を伸ばしてみると、ポロっと落ちた。

ひょ〜〜。

これまた、未採集種。

一体、どれだけのカミキリがいるんだ?
さらに、伐採木の陰から「ブルーメタリック」なムシが飛び立った。

スピードが遅いため、これも難なくネットイン。

おおおおお、こいつも綺麗なカミキリだ。

上品な割に、なかなか胸板が厚い。
その近くの葉上には、小さなコガネムシがいた。

小さいながらも、そこそこ派手。

むしゃむしゃ葉を食っている。
30分ぐらいルッキングしただろうか、あまりの暑さにさすがに疲れてきた。

水分補給のため戻ることにした。

で、戻ってみると、そろそろキャンプへ退散する時間だという。その理由を聞いてみると、午後の遅い時間にはほとんど甲虫は飛ばなくなるそうだ。ここで一端休んで灯火採集に備えようということらしい。

まあ、炎天下の中、ず〜〜っと立ちっぱなしでいたらとても体力が持たないか...。

というわけで、大興奮の渦に包まれた「初の吹上採集」は、ひとまず終了となった。

それにしてもすごかったなぁ。

さて、キャンプへ戻ったところで「水浴び」をしに行くことになった。

綺麗さっぱり汗を流し、ほてった体をクールダウンしよう。

谷底に小さな滝があるというのでみんなで降りていく。
ところが、せせらぎの音はするものの、いつまで下っても川は見えてこない。

もしかして、これをまた登って帰るの?

参ったな〜、と思っていたら河辺に出た。

さあ、行水、行水!

うひょ〜〜、気持ちいい。

水温がちょうどいいぐらいに冷えていて最高だ。

あああ、来てよかった。
心も体もクールダウンし、今度は来た道を引き返す。

うへ〜〜、想像以上にキツイ登りだ。あっという間に息が上がってしまった。

で、結局、登りきったころには水浴び前と同じほど汗をかいてしまった。

あああああ...。

魚眼レンズで撮ってみたが、私の影が長くなっているのが分かる。

これから日没まではしばらく時間があるため、それぞれ自由な時間を過ごす。

私は昨晩の採集品を「展足」することにした。

そして、その展足が終わったころ、ようやく空が赤味を帯びてきた。
さあ、2回目の灯火採集の始まりだ。


記載日:2002.04.17
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