2002年度 採集記(茨城県 カミキリ編 -22-)

「ヒロコ」

いつも通っている林道には、不思議なことに南方系のカミキリムシが「飛び石」的に分布している。実際、記録の通りベーツヤサカミキリを採集し得たことは記憶に新しい。ちなみに、関東地方で本種の記録があるのは我が茨城県だけである。

今回は同じく西日本分布型のカミキリムシであり、かつこの林道にて記録のある「スネケブカヒロコバネカミキリ」を狙ってみたいと思う。

本種は一風変わったエキセントリックな形態をしており、両後肢腿節の太まった部位〜脛節に生えているブラシ状の毛が何と言っても特徴的だ。それに因んで「ブラシ」という愛称で呼ばれることも多い。

また、名前を略して「スネコ」と呼ばれる場合もあり、私も他のカミキリ屋さんと話をするときは、フルネームかスネコと言うようにしている。

しかしながら、私は最初に本種の名前を図鑑で知って以来、なぜか「ヒロコ」という3文字の部分が浮き出て見え、それが頭から離れなくなってしまっている...。

今までの人生の中で「ヒロコ」なる名前に特別な思い入れがあるわけではないが、そのような経緯で誠に勝手ながら、私の採集記に限り、本種は「ヒロコ」とさせていただく。

ということで、時期的にはちょっと早いかもしれないが、「ヒロコ」の下見も兼ねて出撃してみることにする。



2002.07.31 (Wed)

茨城県 某所ほか

   天気:快晴
   気温:32.6 度
   湿度:68.7 %
   風力:1(微風)
茨城産カミキリ、「ヒロコ」 編

● 「ヒロコ」のプロフィール

スネケブカヒロコバネカミキリは「ネムノキ」をホストとし、日中はリョウブ、カラスザンショウ、ヌルデなどの花へ訪花することが知られている(当然、産卵のためネムノキの立ち枯れにも飛来する)。

活動期は7〜8月であり、場所によってはすでに採れているかもしれない。

本林道における記録では、8月の後半、主にカラスザンショウやヌルデの花で採れるらしい。

というわけで、その記録を参考にすれば、今回はちょっとフライングということになるが、万が一気の早い個体がいれば儲け物だ。

いずれにしても、先週は別のポイントへ行ってしまったため、「各花@林道沿い」の開花状況が気になるところである。おそらく、ノリウツギは終わりかけで、リョウブは満開だろう。

さて、最後の峠道を痛快に上りきり、林道の入り口へ到着した。


● カラスザンショウ

何はともあれ、最初に「カラスザンショウ」の開花状況をチェックする。

ちなみに、カラスザンショウは「ミカン科サンショウ属」に属する植物であるが、これだけ聞くと、何だかアゲハチョウが寄ってきそうな木だ。

車を数分走らせると、林道沿いにそれらしき植物が生えていた。

おおおお、あった、あった。

これがカラスザンショウだ。

さあ、咲いているかな?


う〜〜ん、若干早いようだ...。


これは別の木。

遠目には開花状況が分からないが、タテハチョウ、アブ、ハチなどは訪花しているようだ。

ちょっと掬ってみるか。

ガサゴソとスイープしていると、ポロっと甲虫が網の底まで落っこちた。

うおおおおお、「ヒロコ」かもしれないぞ。

が〜〜ん...。

アカハナカミキリだった。

「どこまでも果てしなく普通種」なカミキリだ。

[ Corymbia succedanea (LEWIS, 1879) ]

埒が開かないなため、さらに別の木を探す。

ふと気が付いたのだが、この林道には「ネムノキ(ヒロコのホスト)」と「カラスザンショウ」が対峙するように生えているシチュエーションが多い。

ネムノキの傍には....。


カラスザンショウ....。

その逆もまた然り。

う〜〜む、まるで「ヒロコをモノにしろ」と言わんばかりだ。

その後、そのようなポイントを合計10ケ所ほど見つけることができたが、大半はツボミであり、今回は本当にフライングだったようだ。

カミキリムシは、アカハナカミキリしか採れなかった。

しかしながら、日当たりが極めて良い場所以外は咲き始める寸前なので、来週以降が勝負となりそうである。なお、「ヌルデ」はツボミすら出ていない状態であった。

ということで、本日のヒロコはひとまず「打ち止め」。他の採集へ切り替えることにした。


● いつも@いつも

いつもの場所へ車を停め、いつもの小道へ突入する。

で、いつも最初に見るカエデの材を、いつものように「定期点検」。

むむむ、今日もいたか...。

それも、いつものようにたくさん...。


違う材にもいる始末...。

本日をもって「いつものやつら名簿」へ登録することにした。

[ Xylotrechus emaciatus BATES, 1884 ]

いつもの急坂を登って、いつもの尾根筋へ出る。

う〜〜ん、さすがにしつこいか...。

これは、いつか何かが採れないかと期待しているケヤキのウロ。

本邦初公開。

で、奥を覗いてみたが、羽の無い、肌色地にマダラ模様で、ツルっとしたバッタ似の生き物が数匹...。

うえぇ〜〜。

さて、ピークに到達したところで、先々週ツボミだった「リョウブ」を見てみると、満開間近であった。

う〜〜ん、いい感じ。

そして、いい香り。

炎天下、各花をルッキングしていると、目の前に1頭のカミキリムシが飛来した。

即座に手づかみ。

おおお、クスベニカミキリだ。

茨城県では少ない種類なので、ちょっと感激。

[ Pyrestes nipponicus HAYASHI, 1987 ]

そろそろ網を伸ばしてみよう。

おや?、何かデカイやつが落ちだぞ。

なんと、キマダラミヤマカミキリ...。

昼間はこんな所にいるのね。

[ Aeolesthes chrysothrix chrysothrix (BATES, 1873) ]

さらにもうひと掬い。

ううううううう、さらにデカイのが...。

げげげげ。

なんでいるかねぇ...。

君たち、ちょっと出番が早いんじゃないの?

まだ日は高いんだから。

[ Batocera lineolata CHEVROLAT, 1852 ]

触角が欠けているため、こいつはリリース。

ということで、いつもとはちょっと違う採集を楽しむことができた。

この辺で、カラスザンショウを再度ルッキングしつつ、戻る方向へ移動しようと思う。


● クワ畑

ずわ〜〜〜っと来た道を引き返し、カラスザンショウを要所要所で再確認するも、すべて空振り...。

さすがに今回は諦めて、麓のクワ畑を見に行くこととする。

クワ(桑)と言って、まず頭に浮かぶのはオニホソコバネカミキリ(ギガンティア)だが、他にも数種のカミキリムシが宿る樹木として知られている。

それらを列挙すると、クワカミキリ、キボシカミキリ、トラフカミキリ、イッシキキモンカミキリなどで、カミキリムシからは人気のある樹種だ。イッシキキモンを除いた3種はすべて県内での棲息が確認されている。

で、トラフカミキリとイッシキキモンカミキリは我が人生において未採集種であり、可能なら採ってしまいたいのだが、この林道ではいずれも記録が無く、いるかどうかは分かっていない。

という背景のもと、ざっとではあるが毎回駄目元でチェックしているクワ畑なのである。

さあ、どうよ。

う〜〜ん、今日もな〜〜〜んもいないようだ...。

唯一見掛けたムシの子供。

基本的にフィールドが乾燥しきっており、これではムシも外へ出てこないだろう。

本来ならカミキリムシが好みそうな「新鮮なソダ」だが、実はカラカラに乾いていて何もいない...。

だめだこりゃ...、と「いかりや長介」の決めゼリフを吐きつつ、私も一端「温泉」へエスケープ。

もう、これ以上「炎天下」にはいられない。


● 夜の部

まずは、毎回必ず寄る日帰り温泉でゆっくりと休養。ここの湯は「アルカリ泉」のため、肌がツルツルして気持ちがいい。

夕食&仮眠の後、ホームセンターを求めて彷徨うことに...。

本日は、もし、手ごろな値段で「発電機」を購入できれば、このまま灯火採集を行うつもりである。

なるべく交通量の多い国道、県道を選んで走る。

結局、国道沿いで3店舗を発見することができ、それぞれに潜入してみたが、どこもしょぼい製品しか置いていなかった。

ということで、今回、自家灯火セットによる採集は諦め、街灯回りへ作戦を変更した。

と言っても、確固たるポイントを知っているわけではないので、いつものように適当に走って適宜チェックしていくという方針だ。

19時半ごろに日没を迎え、周囲が刻一刻と暗くなってきた。

どのくらい走っただろうか?

道中、ロクな街灯や自販機を見つけることができず、結局、以前アカアシオオアオカミキリを採集し得た「強烈な自動販売機群」へたどり着いてしまった...。

月齢はいまひとつだが、ここの「光量」なら期待が持てる。

早速、車を降りてムシを探す。

お約束のコクワガタ。


うう、ノコギリカミキリだ...。

[ Prionus insularis MOTSCHULSKY, 1857 ]

ん!

そうそう、君たちはこの時間帯に出てこなくちゃ。

[ Aeolesthes chrysothrix chrysothrix (BATES, 1873) ]

自販機同士の隙間に潜むアオスジカミキリ。

このところ、ご無沙汰しています。

[ Xystrocera globosa (OLIVER, 1795) ]

次の瞬間、ミサイルのように自動販売機へ激突する大型甲虫に遭遇。

ものすごい音をたてて地面へ落下。

ミヤマカミキリであった。

こいつは♂。

写真を撮っている最中に、もう一撃。

今度は♀だ。


う〜〜ん、ここにも...。


がお〜〜〜。

[ Massicus raddei (BLESSIG, 1872) ]

キリがないので、また来週...。


● エピローグ

う〜〜ん、残念ながら「ヒロコ」と出会うことはできなかった。

まあ、カラスザンショウの開花状況は把握したので、あとは時間が解決してくれることを期待しよう。

恋は焦らずといったところだろうか。


★★ 採集成績 ★★

ニイジマトラカミキリ  12 exs.
[ Xylotrechus emaciatus BATES, 1884 ]

ミヤマカミキリ  5 exs.
[ Massicus raddei (BLESSIG, 1872) ]

キマダラミヤマカミキリ  4 exs.
[ Aeolesthes chrysothrix chrysothrix (BATES, 1873) ]

アカハナカミキリ  2 exs.
[ Corymbia succedanea (LEWIS, 1879) ]

アオスジカミキリ  1 ex.
[ Xystrocera globosa (OLIVER, 1795) ]

クスベニカミキリ  1 ex.
[ Pyrestes nipponicus HAYASHI, 1987 ]

総計:6 種 25 頭


記載日:2002.08.01
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