2002年度 採集記(茨城県 カミキリ編 -6-)

「ジャブ」

前回に引き続き、メインフィールド内の様子を見に行くことにする。

先週の下見を基準にすれば、茨城県北部では現段階において完全なシーズンインとは言えない。したがって、今回も状況があまり変わらないならば、敢えてカミキリムシには固執せず、この時期でも出てきている甲虫達を「観察」しながら、気に入ったムシを採集していこうと思う。ボクシングでいえば「ジャブ」をかますぐらいの感覚だ。

まあ、例年より季節が先走っているとはいえ、まだまだ先は長い。少なくとも、「本能?」の赴くままに燃え上がる時期としては、ちょっと早いだろう。

当然、時期と(私の)未熟さの相乗効果で、今回もボーズを食らう可能性が高いが、それはそれで構わない。最近は採れなくてもあまり焦らなくなってきた。むしろ、逆に採れたときの嬉しさが倍増(あるいはそれ以上)するのだから、私にはちょうどいいのかもしれない。

ということで、ぼちぼち出発するとしよう。



2002.04.09 (Tue)

茨城県 某所

   天気:曇りのち雨
   気温:13.1 度
   風力:3(弱風)
茨城産カミキリ、ジャブな旅 編

● 曇天&低気温

先週は目の覚めるような快晴で、汗ばむほどの夏日であったが、本日は打って変わってどんよりとしていて気温も低い。雲は厚く空を覆い、今にも雨が落ちてきそうだ。はっきり言ってムシ採りな日和ではない。

実は、好天に恵まれれば県北のブナ林へ行き、かつて珍品と言われた「ヒラヤマコブハナカミキリ」を探そうと思っていた。本種はアカメガシワやカエデの「ウロ」で採れることが知られており、今季はぜひチャレンジしてみたかったのである。しかし、この天気ではそんな気も失せてしまった。

幾分、ポイントの選定に迷ったが、気になる林道があったので、駄目元でそこを見に行くことに決めた。

ということで、定刻通りに職場を後にする。

道中、標高が多少高い場所では、まだサクラが満開だ。

非常に素晴らしい。

時折吹く強い風に「ぶわ〜〜っ」と花びらが舞う。

まさに「桜吹雪」だ。


● 「スギカミキリ」リベンジ

さて、前回の採集行では、スギカミキリのルッキングを行ったものの、採集には至らなかった。

よって、今回は3月中にちょっとだけ下見した「老スギ」を見に行ってみることにした。

県道を1本折れて、そのポイントへ向かう。

このエリアには、保護対象になっている立派なスギもあり、かなり期待はしているのだが...。

う〜〜ん、すごい。

昔の人が木を神格化した気持ちが分かる。

で、樹皮に脱出孔は開いているだろうか?


むむ、開いている。


別のスギには怪しげなすき間が...。


ここにもあるぞ。

このエリアにあるスギは、スギカミキリにそこそこ食害されているようだ。

今度はその「主」を探してみる。

剥がれかけた樹皮をちょっと浮かせてはライトで奥を照らす。

しばらく、そんな行為を繰り返したが、どうにもスギカミキリの姿はない...。

時期的にも申し分なさそうだし、ここ自体、けっこういいポイントだと思うんだけどなぁ。

まあ、いないものは仕方ない。痕跡が確認できただけでも良しとしよう。

先を急ぐ。


● 林道

順調に林道の入り口までたどり着いた。

序盤は上り坂であり、ざ〜〜っと上がっていく。

「菜の花畑」の片隅で、ちょっと一服。

何気なく辺りを見回していると、遠くの方に深紅の花房をたたえた「カエデ」らしき姿が見えた。

網を片手にそこまで行ってみると...。


正解!

葉は十分に開いている。

「花」はどうだろうか?

むむむ、目線を上げると、一面が真っ赤じゃないか。

とりあえず、手の届く範囲では「ツボミ」のようである。

しかし、上方の陽の当たる領域では花が咲いているように見える。

う〜〜ん、なんかドキドキしてきたぞ。

早速、スイーピングを開始する。

ちなみに、空はさらに厚く雲が覆い、気温はなんと12度だ。通常ならカミキリは飛来しないはずだが...。

まあ、そんなこと考えていてもしようがない。まずは2掬いほどして網をたぐり寄せる。

ん、何か入っている。

おおおお、これは「ファウストハマキチョッキリ」だ。

絶妙に美しい光沢を放つ甲虫である。

こんな天気でもいるのかぁ。

[ Byctiscus fausti SHARP ]

さてさて、もうひと掬いしてみよう。

それにしても寒い。冷たい風で耳が痛いほどだ...。

と、嘆きつつ網の方を見ていると、なんかポロっと黒い物体がネットインしたようだ。

ムシだろうか?、いわゆるヤンキー座りで網をのぞき込むと...。

あああああ、カミキリだ!

やった〜〜!!

でも、これはこの時期の優占種「ヒナルリハナカミキリ」??

それにしては、ちょっとスリムだ。


ところが、じ〜〜っと見ていると、そのヒナルリハナにも思えてくる。

昨年あれだけ採ったにもかかわらず、1年経ってみればロクに現場で同定もできないんだから情けない...。


う〜〜む、結局、現場では判別できなかった。

君は何カミキリ?

で、帰宅後の鑑定では「チビハナカミキリ」(※)と判明した。

生涯で初採集となる。

[ Alosterna chalybeella BATES, 1884 ]

図鑑によると、このカミキリムシは早春から晩春にかけて成虫が出現し、カエデやミズキのスイーピングで採れることが多いそうだ。

茨城県の記録を確認してみると、北茨城市における記録があるのみであった。おそらく、死ぬほどの普通種でその後の報告すらされていないカミキリムシだとは思うが、こういう予期しない出会いは素直にうれしい。

その後、追加を期待して何度もスイーピングを行ってみたが、ここでは後にも先にもこの1頭のみという結果であった。天気が良ければ、もう少し採れたかもしれない。

※ 上記のカミキリムシは後日「ミヤマルリハナカミキリ」と判明。同じくカエデのスイーピングでよく得られる種とのこと。

[ Kanekoa azumensis (MATSUSHITA et TAMANUKI, 1942) ]

さあ、次へ行こう。

林道をスローペースで流していると、木にまとわりつく蔓性植物が目に付いた。

葛(クズ)?、藤?、それともヤマブドウ?

ふ〜〜む、「葛」と「ブドウ類」の蔓同士が互いに巻き付いている。

ただ、何ブドウなのかは知識不足で分からない。

いずれの蔓も枯れているようなので、割ってみることにした。


互いを引き離し、ブドウの方を端から折ってみる。

ブドウ類は、写真のように樹皮がフレア状に広がるようだ。

芯部は比較的堅く、力を入れないとなかなか割れない。


おや?、何かの食痕が出てきた。

多分カミキリムシのものだろう。

太さからは、「アカネカミキリ」か「アカネトラカミキリ」のものかもしれない。

丁寧に食痕を追いかけてみたものの、結局、何も出なかった...。

残念。

ちなみに、ブドウ類の蔓の外観はこのような感じ。


参考のため、アップ写真も一応載せておく。

気分を新たに、さらに奥へ探索をしようと思ったところ、不運にも雨が降りだしてしまった。

この先どうしようかとしばし迷ったが、ここが引き際と判断し、本日の探索にピリオドを打つことにした。


● エピローグ

天候には恵まれなかったものの、カミキリムシとの思い掛けない出会いがあった。

わざわざ採集記で取り上げるほどのエピソードではないかもしれないが、このような小さな喜びを大切にしつつ今後も採集を続けていこう。


★★ 採集成績 ★★

ミヤマルリハナカミキリ  1 ex.
[ Kanekoa azumensis (MATSUSHITA et TAMANUKI, 1942) ]


記載日:2002.04.09
記載日:2002.04.10(同定ミスを訂正)
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