2002年度 採集記(神奈川県 小型種編 -1-)

神奈川県のホソツヤルリクワガタ

昨年末、相棒が神奈川県の高山帯にて、体色がかなり黄色いホソツヤルリクワガタを2♂採集してきた。その個体の写真は、先日の日記にて紹介したとおりである。

→ 日 記

もともと神奈川県では、他産地のものと比較して黄色味の強い個体が多く出るということが知られており、私自身も実際に「黄緑色」の神奈川産個体を何頭か見たことがある。確かに、山梨県で多く見られるブルーの個体よりはかなり黄色っぽい。

しかしながら、あそこまで全体が黄色い個体を見るのは初めてであった。より正確に表現するなら、黄金に輝くホソツヤルリクワガタと言ったほうがいいだろう。

ただ残念なことに、同個体は撮影後、単なる緑色に変色してしまったそうだ。今のところ、撮影に用いた照明の熱によって変色を来したと推察しているが、真実は明らかになっていない。

いずれにしても、相棒とはもう一度採集しに行こうという方向で話がまとまっていて、今回はそれを果たすための出撃である。

さあ、私にもゴールデン・ホソツヤを採集することができるのだろうか?



2002.01.20 (Sun)

神奈川県 某所

   天気:曇り
   気温:氷点下5度
   風力:1(微風)
神奈川県、黄色い誘惑編

● 寒すぎる...

さて、出発だ。

早朝5時半に自宅を飛びだし、定刻通り6時に相棒宅へ到着。そして、いつも通りに相棒をピックアップして、最寄りのランプから首都高へ乗る。

今回の目的地は神奈川県内のポイントであるが、カーナビの指示に従い、一端、中央高速にて山梨県へ入ってから、再度、神奈川県へ戻るというルートで行くことにした。

登山口も間近という頃、車内の温度計を見てびっくり。なんと、氷点下6度となっているではないか。比較的正確な温度計のため、多少の誤差を差し引いたとしてもすごい気温だ。

ここまで寒いと、当然、路面凍結や積雪が心配になってくる。

相棒によると前回訪れた昨年の大晦日は、かなり手前から積雪がみられ一番奥までは入れなかったそうである。今日は大丈夫だろうか?

そんな不安を抱えつつ、登山口方面へ向けて県道を折れた。

しばらくは舗装道路が続くが、途中からは少々荒れたダートとなる。

「前回、ここから先へは雪がすごくて車では進めませんでした」と相棒のいう場所は難なくクリアし、どんどん先へ進む。

結局、積雪はたいしたことなく、一番奥の登山道入口までたどり着くことができた。まずは一安心だ。

さあ、登るぞ〜〜。


● アイスバーン

今回もそれなりに本格的な登山が待ち受けている。

まあ、山を登るというキツイ行程があるからこそ、ターゲットを採集できたときの喜びは大きいのだろうが、可能なら私は回避したいところだ...。

序盤では殺風景な植林が続き、道の状態もそんなに悪くない。

が、5分ぐらい登ったところで、いきなり一面の路面凍結に遭遇した。
斜度が緩いうちは問題なかったが、徐々に「滑り」がキツくなってきた。

見るからに寒々しい...。

私の靴は長靴で、それも靴底の溝がほとんどないため、ツルツル滑ってしょうがない。

摩擦係数は限りなくゼロに等しい...。

ひぇ〜〜、これじゃ登れない。

見上げた先に延々と続く「アイスバーン」に委縮してしまう。

しかし、このまま引き下がるわけにもいかない。

滑落しないようゆっくりとしたペースで、細心の注意を払いながら登っていく。

尾根までの道沿いでもホソツヤの採集は可能だそうだが、往路は産卵マークの確認をするに留め、まずは黄色い個体を割り出したという山頂付近を目指すことにした。今回は山頂から下山する方向で採集をしていく「デパート回覧方式」をとる。

そして、いつもより時間はかかったが、学生時代のアイスホッケーで培った絶妙な?バランス感覚をもって、なんとか尾根に出ることができた。おそらく、ここから先は楽な行程のはずだ。

しかし、ここまででかなり余計な体力を消耗してしまった。すでに汗だくである。今後はアイゼン、あるいはスパイク付き長靴の導入も考えなければならないだろう。

周囲を見渡してみると、予想外に尾根には積雪がなく、路面凍結もごく軽微であった。

これまでの行程を考えると、まさに天国と地獄のようだ。


むむむ。

道標の傍らによさそうな立ち枯れがある。

まさかなぁ、とは思いながらも近寄ってみると...。


げげげ...。

ホソツヤのコンパクトな産卵マークがくっきりと...。

まあ、削りたいのは山々だが、これは目立つところにあるからやめておくか...。

ということで、そのまま放置した。

さあ、山頂を目指そう。


● マダニ

てくてくと尾根道を歩いていると、「あれっ?」と相棒の声が背後から聞こえた。

どうしたの?、と振り返ると...。

相棒の袖口に赤褐色のクモのようなムシがいる。

ぎょぇ〜、マダニだ...。

ササにひっついて獲物を待っているやつらだが、まだ我々は笹藪へ入っていないぞ。

う〜〜ん、これから先、咬まれなければよいが...。

とりあえず、自分の体に付着していないことを確認し、肌の露出を最小限に抑えておくことに。私の知るかぎり、関東地方においてマダニ咬着症に続発する「ライム病」の発症報告は聞いたことがないが、咬まれないに越したことはない。

私はどうにも「吸血動物」が苦手だ。

ちなみに「ライム病」とは、マダニ類が媒介するスピロヘータ感染症で、経時的に移動する躯幹部の紅斑(発赤)が特徴的だ。文献的には北海道や長野県での発症例が多い。ミノサクリンなど、テトラサイクリン系の抗生物質で治療可能である。通常は皮膚科で扱っている疾患だが、内科などでも大丈夫だろう。


● 山頂

紆余曲折の末、ようやく山頂へ到着した。

どんな山であれ、ピークを極めるということは爽快である。低気温でキンキンに冷えたお茶もうまい。

本来なら、富士山の雄姿を独り占めできる場所なのだそうだが、本日はあいにく厚い雲に覆われて「富」の字も見えない...。

というわけで、別方向の写真。

ここで一休みした後、本腰を入れて採集を始めるとしよう。


● 採集開始!

まずは、前回相棒が黄色い個体を採集したという斜面へ突入することにした。

ここで一応書いておくが、「黄色、黄色」とは言っても、ここで採れるすべての個体が黄色いわけではなく、数頭に1頭の割合で真黄色な個体が混じる程度であるとのこと(相棒談)。

ここの植生は、関東地方(太平洋側)の低〜亜高山帯に普通にみられる「ブナを中心とした落葉樹林」である。林床はおおむね腰ほどの背丈を有するササの群生で一面が覆われている。場所によっては、私の頭がすっぽり隠れてしまうほど背の高い笹藪地帯もあり、それなりにヤブ漕ぎは大変そうだ。

とにもかくにも、私の場合「マダニ」だけは非常に不愉快かつ脅威的な存在なので、常時、体をチェックしながら材を探していくという面倒くさい作業になる。


● ルリクワガタ

登山道から少し林内へ入ったところに、典型的なブナのルリ材(立ち枯れ)を発見した。

ちょうど向かって右側にわんさかルリが入っていそうだ。

実際に削ってみると絶好の手ごたえであり、これは出るだろう。


数刀目でビンゴ!

ルリクワガタ(♂)だ。

茨城県では「いつものやつ」なんて呼んでいるが、神奈川県ではなかなか得難い種類なのでうれしい。

ただ、予想に反し、この材ではこの1♂のみで終了...。

次の材を探しに歩く。

今度も似たようなブナの立ち枯れだが、この材は乾燥がキツいためか、食痕はあるもののムシは出なかった...。

すでに時間が経ち過ぎているようだ。


というわけで、次の材。

これはスネの太さほどの立ち枯れ(樹種不明)。

少しオノを入れてみたが、良好な朽ち方である。


おおっと!、真っ黒い腹の♀が出た。

早々に1ペア確保できたことになる。


さらにもう1頭。

運がいい。


掌に乗せてまじまじと眺めてみる。

ん?

一瞬、ホソツヤかと思ったが、単なる小型のタダルリ(♂)だった。

まったくの「ぬか喜び」...。

※ 後日、この材で採集できた個体はホソツヤ3♂♂と判明(いずれも黄緑色)、つまりルリと混在していたことになる。

ここで一端登山道へ出て休憩&昼食タイム取る。

ふとズボンを見てみると、あああああ、マダニがたくさん付いているではないか...。

なんてこったい。

慌ててパンパンと払いのける。とりあえず見える範囲はすべて除去したが、まだどこかに付いているんじゃないかと、なんとなく不安が残る。

※ その写真を撮っておけばよかったと、後から後悔もしたが、その時は気が気ではなかったのだ...。

不安に駆られながらも再度笹藪へ身を誘う。テンションを保っているときの採集意欲というものは怖いものなしだ。

ということで、午後の部へ突入。

ヤブへ入ってすぐ、豪快なルリ材を発見した。

ふ〜〜む、このポイントは何気にルリ材が多い。

もしかして、ここでも「いつものやつ」なのか?


ふ〜〜む。


やっぱり「いつものやつ」かもしれない...。

茨城のポイントとほとんど変わらない濃さだ。

ここは神奈川県でルリを多産する「希有な山」と言えるだろう。

それと、小型種とは関係がないが、ヤマザクラの太い枯れ枝からアカアシクワガタの死骸が出てきた。

アカアシのホストはブナとばかり思っていただけに、これは新鮮な発見であった。

一応報告しておく。


● ホソツヤルリクワガタ

今回のメインターゲットはあくまでホソツヤルリクワガタ、あまりタダルリばかりに気を取られているわけにはいかない。

大幅に視点を変えて、遅まきながらホソツヤ材の物色を開始した。

これは太いブナの倒木から折ってきた枝。

産卵マークは付いているだろうか?


おおおっ!、あったぞ。

明らかにホソツヤルリクワガタのマークである。

マークの周辺から浅く材を削いでみると、すぐに食痕が出てきた。

そして、慎重にそれを追いかけていくと、ポコっと蛹室らしき空洞が出現。

が、残念ながらまだ幼虫であった...。

一応、参考までに掲載しておく。

ルリ属の糞の形態は基本的に繭玉状で、コメツキムシなど外道のもの(球形に近い)とは若干異なる。

気を取り直して、もう1本枯れ枝を折ってくる。

これもビッシリとマークが付いている。

マーク1個に対し、卵1個ということなのだろうが、1♀あたり30個ほど産卵するらしいので、きっと母親にとっては一世一代の大仕事に違いない。


さらにアップ。

大半のマークは、木目に対してきちんと直交するように刻まれているのが分かる。

しかし、中央のマークは斜めに刻まれており、完成していない。

途中で間違えたことに気づき、やめてしまったのだろうか?


● ツートンカラー

「やっと採れたぁ〜〜!」

静寂を破るように、遠くで相棒の叫ぶ声がする。

そして、向こうから速足で相棒がやってきた。

私の目前に右手を差し出し、ゆっくりと掌を開くと...。

ああああ、これは...。

体のすべてではないが、頭胸部とエリトラ(鞘翅)の肩部がかなり黄色い。

言わば「ツートンカラー」のホソツヤである。


自然光の下で見る黄色は、まさに「黄金」のようだ。

素晴らしい。

ただ、写真ではその数十分の一も表現できていないことが悔しい...。

このホソツヤゲットを見られただけでも満足なのだが、相棒はさらにトウカイコルリクワガタ2♂まで採集していた。小型種採集の腕では本当に敵わない。

う〜〜ん、と感心しているのもつかの間、今度は「あああああっ」という相棒の一声。

あああああっ!

事態を把握した私も思わず叫び声をあげる。

なんということか、採ったばかりのホソツヤを落としてしまったのだ...。

2人で必死になって隈無く地面を探してみたが、大量の落ち葉の中からはとても見つかるはずもなく万事休す。結局諦めざるを得なかった。

それにしても本当に残念...。

さて、この後、尾根沿いを執拗に攻めてみたが、大方の材は割ってしまった。陽も少々西へ傾いてきたため、この辺で下山する方向へ移動することに決めた。

しかし「行きはよいよい....」のフレーズのごとく、帰りは「滑落」に注意する必要がある。凍結した道は、おそらく登り以上に危険なはずだ。下山には時間がかかる可能性が大きい。

ということで、一歩一歩、地面のグリップを確かめつつ下山を開始した。


● 嗚呼、ホソツヤ!

それこそカタツムリのような速度で山を下りる。

往路で目をつけておいた材を割りながら行こうと思っていたのだが、なかなか体の自由がきかない...。

最後の悪あがきとして私ができることは、傾斜が緩やかな場所まで我慢して下り、そこでホソツヤを狙うしかない。

そして、やっとのことで見つけた有望材。

樹間に挟まっており、「典型的」なホソツヤ材と言える。

頼むから産んでいてくれ。


やっほ〜〜!

しっかし、マークがとことん木目に直交している。

滑る足場に翻弄されながら、慎重に材を割っていくと...。

ううううっしゃ〜!

や〜〜〜〜〜〜っと採れた。

♀であったが、最高にうれしい。

ホソツヤって、なんて美しいんだろう...。

渾身の力を込めて残りの材を割ってみたが、追加個体は出ず。

敢え無くタイムアップとなってしまった。

無念...。


● エピローグ

う〜〜ん、結局「黄色い誘惑」は一回の出撃で断ち切れなかったが、神奈川産のルリクワガタがそこそこ採集できたので今回はよしとしよう。

2人合わせればこの山のルリ属3種完全制覇である。欲を言わなければ十分な成果だ。

登山道の凍結さえなければ、そんなに大変なポイントではないと思うので、機会があれば雪が溶けた時期にもう一度訪れてみたい。

もっともその頃はマダニに加え、ヤマビルが最大の天敵になるんだろうけどね...。

※ 本文には書かなかったが、不運にも今回相棒はマダニに肘を咬まれてしまった。そして当の私はというと「大事なところ」の近所を咬まれたような気がしてならない...。大丈夫だろうか?


★★ 採集成績 ★★

ルリクワガタ     3♂♂6♀♀

ホソツヤルリクワガタ 3♂♂1♀


記載日:2002.01.22
追記日:2002.01.23(誤同定を訂正)
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