2002年度 採集記(埼玉県 カミキリ編 -1-)

パキタ

「パキタ」、カミキリムシをやっている人でこの名前を知らない人はいないだろう。

パキタとは学名(Pachyta)にちなむ愛称で、正式な和名を「キベリカタビロハナカミキリ」という。

その形態を分かりやすく客観的に表現するのは難しいが、中肉中背で、六本の脚が長く、ちょっと肩幅があって厳ついながらも、全体的には愛らしい体形をしたカミキリムシといったところか。

私は読んだことがないが、北杜夫著「どくとるマンボウ昆虫記」という本に登場する有名なカミキリムシでもあるそうだ。そのため、カミキリムシに興味がなくとも、この名前を知っている人は案外多いようだ。

いずれにしても、カミキリ屋からは依然人気の高い種類であり、もちろん、私もいつかは「この手」で採集してみたいカミキリムシの一つであった。

以前より、埼玉県には本種を多産する林道があると聞いていたので、この夏「最後」の遠征はパキタを採って締めくくりたいと考えていた。つまり、今回はいよいよそれを実行に移す「とっておきの採集行」ということになる。

その林道は、条件が良ければ1日で「(パキタが)二桁は軽い」ポイントと言われ、どんなに運が悪くても「ボーズ」ということはないだろう。

それでは、溢れる期待感を抑えつつ、パキタに会いに行くとしよう。



2002.08.04 (Sun)

埼玉県 某所

   天気:晴れのち雷雨
   気温:27.2 度
   風力:1(微風)
埼玉産カミキリ、いざ、陸の孤島へ 編

● 池修さん

さて、今回の採集行には非常に「心強い」同行者がいる。

あの有名なカミキリムシのHP、「カミキリムシ情報館」の池修さんだ。

池修さんは、数年前に「埼玉県産カミキリムシ目録」をまとめたご本人であり、当然のことながら埼玉県のカミキリムシに関しては、誰もが認める第一人者。そして、今回行く林道の「主」のような方である。

そのような方が、私を案内をしようと一肌脱いでくれるというのだ。これほど恵まれた機会はないだろう。本当にありがたいことである。

ということで、日曜日、早朝5時半に池修さんをピックアップし、一路、埼玉の林道を目指すこととなった。


● 陸の孤島

今回訪れる林道は、東京からの直線距離はさほどないものの、アプローチはかなり大変で、実際、当の池修さんは「日本のチベット」と呼んでいる。要するに「陸の孤島」だ。

ポイントへ到達するにはいくつかのアプローチルートが考えられるが、いずれも東京から優に4〜5時間はかかってしまうほどの「奥地」なのである。池修さんはカミキリ相の調査という目的があったとはいえ、そんな場所へ80回以上も通ったというのだから頭が下がる思いだ。正直、南会津へ行くほうが、気分的にも体力的にも明らかに楽であろう...。

ところが、車内では終始カミキリ談義に華が咲き、長い道中も想像よりは短く感じられた。

今後の参考となる示唆に富んだお話を伺うこともでき、それだけでも来た甲斐があったというものだ。


● 陸の孤島へ上陸

延々と続く下道を走りきり、予想通り9時半に林道へ到着した。

林道へ入るやいなや、突然、池修さんの目が「ハンター」のようにキラキラと輝き始める。池修さん自身は、2年ぶりにここを訪れるそうで、いろんな思いが走馬灯のように駆け巡っているのかもしれない。

ここには、確実にパキタが採れる通称「グレートウツギ」と呼ばれている大きなノリウツギがあるそうだ。まずは、そこへ行ってみようという。

ガリガリと大きな音を立てながらダート道を下り、大きなカーブを曲がったところにそのグレートウツギはあった。

おおおお、すでに網を持った4〜5人のカミキリ屋さんの姿が見える。さすがは「カミキリ屋 銀座」の異名を持つポイントだ。

一番端に車を停め、とりあえず自分の目でグレートウツギを確認する。

へぇ〜〜、これが噂に聞いたグレートウツギかぁ、確かに「グレート」だ。

で、先客のうちのお一人は6月に南会津でご一緒した「Kさん」、もう一人の方はそのご友人の「Oさん」であった。Oさんとは初めてお会いするが、以前からメールでやりとりさせていただいているので、あまり初対面という気がしない。

その時、池修さんのため息にも似た感嘆の声が聞えた。振り返ってみると、先ほどキラキラと輝いていた瞳はもうそこにはなかった...。

「ああああ、こんなになっちゃったんだ...」

一瞬、私の頭の中は「????」であったが、どうやら路肩の崩壊とともにウツギの一部が倒れてしまっていることに驚いているようだ。

私は昔の「全盛期」の姿を知らないが、池修さんの話では、それはそれはスケールの大きいノリウツギだったそうで、それこそ大人が4〜5人で半円状に取り囲んでも各人が十分に採集できるほど巨大なものだったらしい。それが今や、その半分ぐらいになってしまったとのことだ。

う〜〜ん、確かに現状としては一人が張ってしまえば、それで終わってしまいそうなほど規模が小さいと言えなくもない。

迫力がないという意味では、数本の首を引っこ抜かれた「キングギドラ」のようなものだろうか。

ピント外れの例えであれば、申し訳ない...。
晴天の下、ブンブンとカミキリムシが舞い飛ぶ姿が見えているため、早速それらを掬うとしよう。黙って見ていてもしようがない。

まずは、一番上の方に大型のハナカミキリを発見したので網を伸ばす。

微妙な角度であったが、うまい具合にそいつが「ボロっ」とネットの底へ転がり落ちた。

やった、オオヨツスジハナカミキリだ。

数年前に群馬県で採ったことのあるカミキリムシだが、最近では「初」となる。


う〜〜ん、オオヨツ!!

[ Macroleptura regalis (BATES, 1884) ]


そして、コヨツスジハナカミキリも採れた!

何気に採ってみたかった未採集種であり、めちゃくちゃ嬉しい。

う〜〜ん、コヨツ!!

[ Leptura subtilis BATES, 1884 ]

その他、大半はいつものヨツスジハナカミキリやフタスジハナカミキリばかりだ...。

時折、それらに混じって真っ黒なヤツボシハナカミキリもネットイン。

ほんと、真っ黒け...。

[ Leptura arcuata mimica BATES, 1884 ]

で、30分ぐらいパキタの飛来を待ってみたが、私の位置する側には一向に現れない...。

ここで池修さんのアドバイスもあり、別のウツギを見に行くことにした。

標高を下げる方向へ進み、道沿いにあるノリウツギやリョウブをチェックしていく。

しかしながら、ノリウツギは終わりかけの花ばかりだ...。

それでも怪しいと思う飛影を次々とネットインしていくが、いずれも本命のパキタではなかった...。

これは、ニョウホウホソハナカミキリ。

ニンフハナカミキリと似ているが、触角が「縞状」となっている点(ニンフは先端部が白)で見分けると楽だ。

[ Parastrangalis lesnei (PIC, 1901) ]

むむむ、未採集のミヤマホソハナカミキリ?

帰宅後の鑑定では、残念ながら既採集種のハコネホソハナカミキリであった...。

前胸背板が黒いのが特徴的だ。

[ Idiostrangalia hakonensis (MATSUSHITA, 1933) ]

その他ネットに入るのは、マルガタハナカミキリ、ヒゲジロハナカミキリ、キヌツヤハナカミキリ、ホンドアオバホソハナカミキリ、アカハナカミキリ、エグリトラカミキリなど、「どこでも普遍的にいつものやつら」ばかりである。

このうち、マルガタハナカミキリのことを、池修さんが「マルゲリータ」と呼んでいたのには思わず吹き出してしまった。単に駄洒落なのだが、絶妙なネーミングだ。今後、私の採集記でも随時使わせてもらおう。

あとは、ヒメハナカミキリの仲間が数種ぐらいか...。

[ Pidonia simillima OHBAYASHI et HAYASHI, 1960 ]
[ Pidonia masakii HAYASHI , 1955 ]

とぼとぼ、一人で林道を歩く...。

で、この後も、標高を上げた場所でウツギを掬ってみたり、グレートウツギの脇で粘ったりしてみたが、とうとうパキタを採ることができなかった...。

私の網に入るのは、ひたすらこいつらのみ...。

私は本当に採集が下手なようだ...。

[ Leptura ochraceofasciata (MOTSCHULSKY, 1861) ]

ただ、そんな中でも、私のハセトラゲットの立役者「Sさん」、そして関西から遥々来られた「SKさん」と再会&初対面を果たせたことは願ってもないことであった。お二人は、幸運にもパキタを粘りに粘ってゲットされたとのことだ。

おめでとうございます!、う〜〜ん、羨ましい。

そうこうしているうち、みるみる雲行きが怪しくなり、カミキリムシの飛来は一斉に途絶えてしまった...。

ゴロゴロと大きな雷鳴も聞えてきた...。

あああ、今日はもう駄目だろうな。

最後の気力を振り絞って、グレートウツギでしばらく待ってみたが、容赦なく大粒の雨が落ちてきた...。

そして、あっという間に土砂降り...。

ああああ、帰ろう...。


● エピローグ

う〜〜ん、なんだか尻つぼみな採集記となってしまったが、今回の率直な感想としては、とても私にはパキタが「採れる気がしない」ということだ...。

パキタにはそれなりの思い入れがあったため、採れなかったことはとても残念だが、まあ、来年へのいい宿題ができたと考えよう。ときには、「自分の下手さ、未熟さ」をとことん思い知る採集行もなければ、いい気になってしまうというものだ。

ともかく、いろんな意味で「いい勉強」になった採集行であった。

それ以前に今回は、「Kさん&Oさんコンビ」、「Sさん」、「SKさん」など、普段なかなかお会いできない方々と短時間ながらもお話できたことが嬉しかった。

そして最後に、終始、私をつきっきりで案内してくれた「池修さん」には、心より御礼を申し上げたい。

本当にありがとうございました&お疲れさまでした。

「秋」はまた遠征しましょう!


★★ 採集成績 ★★

マルガタハナカミキリ  6 exs.
[ Judolia cometes (BATES, 1884) ]

オオヒメハナカミキリ  5 exs.
[ Pidonia grallatrix (BATES, 1884) ]

ヨツスジハナカミキリ  5 exs.
[ Leptura ochraceofasciata (MOTSCHULSKY, 1861) ]

キヌツヤハナカミキリ  4 exs.
[ Corennys sericata BATES, 1884 ]

フタスジハナカミキリ  4 exs.
[ Leptura vicaria vicaria (BATES, 1884) ]

オオヨツスジハナカミキリ  2 exs.
[ Macroleptura regalis (BATES, 1884) ]

ホンドアオバホソハナカミキリ  2 exs.
[ Strangalomorpha tenuis aenescens BATES, 1884 ]

ムネアカヨコモンヒメハナカミキリ  2 exs.
[ Pidonia masakii HAYASHI , 1955 ]

ヤツボシハナカミキリ  2 ex.
[ Leptura arcuata mimica BATES, 1884 ]

アカハナカミキリ  1 ex.
[ Corymbia succedanea (LEWIS, 1879) ]

エグリトラカミキリ  1 ex.
[ Chlorophorus japonicus (CHEVROLAT, 1863) ]

コヨツスジハナカミキリ  1 ex.
[ Leptura subtilis BATES, 1884 ]

チャイロヒメハナカミキリ  1 ex.
[ Pidonia aegrota aegrota (BATES, 1884) ]

チャボハナカミキリ  1 ex.
[ Pseudallosterna misella (BATES, 1884) ]

ニョウホウホソハナカミキリ  1 ex.
[ Parastrangalis lesnei (PIC, 1901) ]

ニンフハナカミキリ  1 ex.
[ Strangaliella nymphula (BATES, 1884) ]

ハコネホソハナカミキリ  1 ex.
[ Idiostrangalia hakonensis (MATSUSHITA, 1933) ]

ヒゲジロハナカミキリ  1 ex.
[ Japanostrangalia dentatipennis (PIC, 1901) ]

総計:19 種(含初採集 4 種) 41 頭


記載日:2002.08.06
追記日:2002.08.06(ピドニアの誤同定を訂正)
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