2002年度 採集記(栃木県 カミキリ編 -2-)
2002.07.20 (Sat)

栃木県 某所

   天気:晴れ
   気温:28.4 度
   風力:1〜2
● 「あの木」

曲がりを2つほど過ぎたところで、やっと着いた。

道からその雄姿を観察した後、懐かしさに浸りながら急斜面を降りていく。

おおおお、そうそう、これが「あの木」だ。

昨年の同じ時期、私の初ネキとなった「オオホソコバネカミキリ」を採集したブナの立ち枯れである。

台風にも負けず、ほぼ昨年と同じ状態で立っている。

ただ、やはり周囲の獣臭さは変わらないため、緊張感はピークに達し、今にもちびってしまいそうだ。正直、まっとうなルッキングなどできそうもない...。

ともかく、ざっと見てお終いにしよう。「タッチ&ゴー」だ。

ああああ、やっぱり...。

案の定、立ち枯れの根元には、新しい「ツメ跡」がくっきりと...。

やばい、やばい。

ここまで来るのに、誰とも出会っていないし、入り口に車は1台もなかった。おまけに「携帯」の電波など余裕で圏外だし、「対クマグッズ」など何一つ持っていない丸腰だ。

何かあったら私の方がお終いだろう。

うううう、お腹が痛くなってきた...。

一刻も早くこの場を脱したいため、急斜面にもかかわらず、笹をまとめて鷲掴みにしながら半分ぶら下がるような体勢で、だぁ〜〜っと裏側を確認。

すると、目の前10センチのところを、1頭の変なムシがペタペタ歩いている。

ハチにも見えたが、思い切って手を伸ばしてみた。当然、生態写真を撮る心の余裕などは1ミリもない...。

すかさず、体勢を立て直し、つかんだ獲物を見てみると...。

っしゃ〜!!、ネキだ!!

くっ〜〜〜。

やった、やった、やった。

やった〜〜!!

[ Necydalis solida BATES, 1884 ]

とりあえず、オオホソコバネカミキリを1♂採ることができた。

本来なら、このまま少し粘って大きな♀の飛来を待ちたいところだが、何かあってはたまらんと、ダッシュで林道入口まで引き返した。

ああああ、怖かった...。

次のポイントへ移動しようと、少々車で走ったところに、今まで入ったことのない小道を偶然発見してしまった。

生々しい「熊の痕跡」を見た直後であり、入るのを少々躊躇したが、入り口すぐのところに素晴らしい「ノリウツギ」が咲いている。

「こっちへおいでよ!」と言っているようで、とても悩ましい...。

我慢しきれずに、エンジンを切った。

ちょっとだけならいいか。

こんな感じの林道で、狭いため車では入れない。

両脇奥に見えるのが、そのノリウツギだ。

幸い、ここは獣臭くない。


うひひひ、いるいる。


全然関係ない葉にもいる始末。

ミヤマクロハナカミキリ。

[ Anoploderomorpha excavata (BATES,1884) ]

で、上の方には、大型のハナカミキリが訪花しているようだ。

早速、網を伸ばしてみる。

おおおお、フタコブルリハナカミキリ。

いつもながら、いいカミキリだ。

[ Stenocorus coeruleipennis (BATES, 1873) ]

マツシタトラカミキリまで採れた。

何気に、今季初。

[ Anaglyptus matsushitai HAYASHI, 1955 ]

あとは、キヌツヤハナカミキリ、いつものヨツスジハナカミキリ、フタスジハナカミキリ、ヤツボシハナカミキリ、キスジトラカミキリなどという結果であった。

ということで、この小道は切り上げることにした。


● 気になっていた林道

ここで、ちょっとだけ新規開拓。

実は2年ぐらい前から、一度はちゃんと見ておきたかった(素通りすることの多い)林道があり、本日はそこを通るルートで探索が可能だ。多少は大きな移動を伴うが、この際行っておかない手はないだろう。

少なくとも、周辺の植生がブナ・ミズナラ林であると記憶しており、オオホソコバネカミキリは狙えると思う。

というわけで、一路、その林道へハンドルを切った。

何十ものワインディングロードを走りきり、ようやくその林道入口へたどり着く。

そして、休む間もなく突入する。

標高が低いうちは、道沿いのノリウツギで普通種を掬うことができたが、標高を上げるにつれ徐々にツボミだけの状態となってしまった。その一方で、立派なブナの大木が乱立し始め、立ち枯れもちらほら見えてきた。ネキを狙うにはいい雰囲気だ。

ただ、急斜面の下の方からそびえ立つものばかりで、アプローチ不能なものが多く、なかなか絶好なシチュエーションに遭遇しない...。

とうとう、峠のピーク付近まで来てしまった。

一休みを兼ねて車を降りてみると、そこで強烈なブナの立ち枯れを発見した。

幸い、十分にアプローチ可能な位置に立っているので、網を片手に近寄ってみる。

ひょぇ〜〜。

すごすぎる...。

まさに「ネキ好み」な立ち枯れだ。

木の回りには、衛星のように多数のムシが飛び交っているぞ。

幹もしっかりしており、大人が2人以上いないと抱えられないほどだ。これは見応えがある。

早速、樹幹表面のルッキングを開始した。

おおおお、あれはどうかな?、これは何だろう?

目に付いた「影」を次々網へ落としていくものの、どれもハチなどの外道ばかり...。

30分ほど、そのような作業を繰り返してみたが、残念なことに、ここではネキを採ることができなかった。

まあ、タイミングもあるだろう。いずれにしても、そのうちこの木で採れるような気がするし、そのオーラを十分に発している木でもあった。発見できただけでもラッキーだ。機会があればまた訪れてみよう。

さて、この後はどうしようか...。

もう、新規として見ておきたいポイントもない。炎天下の中、運転&ムシを探し続け、体力の消耗も無視できなくなってきた。まだ時間は残されているが、ネキも1つ採ったことだし、そろそろ帰ってもいいかな...。

結局、帰路の道順も考え、先週訪れた「Sさん」のハセガワトラカミキリのポイントへ寄っていくことに決めた。

今から行けば、3時半前には着くはずである。時間帯もちょうどよいだろう。

ということで、先週のリベンジも兼ねてそのポイントへ進路をとった。


● 疲れた〜

だいたい予想した通りの時間に「Sさんポイント」へ到着した。

スタートからここまでで、かなりの距離を走ってきたことになり、正直、疲れ果ててしまった。

もうすでに気力はほとんど残っておらず、今回はざっと見るだけにしておこう。

まずは、例の巨大なヤマブドウへ行ってみる。

一見して、先週と特に大きな変化はないが、この強い陽射しの中で「カラカラ」に乾燥してしまっている。

先週あれほどいたアカネカミキリやアカネトラカミキリの姿もまったくない...。

う〜〜ん、こりゃだめだなぁ...。

仕方なく、他の材を見回る。

モミの材にハンノアオカミキリを発見。

[ Eutetrapha chrysochloris (BATES, 1879) ]

とりあえず、いたのはこいつだけ...。

別の材へ行こうと後ろを振り向いた瞬間、1頭のグリーンなカミキリムシが向こうから飛んでくるのが見えた。

今回もボルネオで鍛えた網さばきが功を奏し、まんまとネットインに成功。

網の底を覗いてみると、やはりカミキリムシで、どうもハンノアオに見える。

なんだぁ...、と思いながらそいつを摘み上げてみると...。

あああああ...。

ヤツボシカミキリじゃないか...。


前胸背板の側面に黒い斑紋がない。

やっぱり、本物のヤツボシカミキリだ。

なんか、この青さに「うっとり」...。

[ Saperda octomaculata BLESSIG, 1873 ]

いや〜〜、ヤツボシはニセヤツボシとは違って綺麗と聞いていたが、本当に綺麗なスカイブルーをしている。発色としてはルリボシカミキリに近いものがある。

ああああ、ここに来て正解だった。

ん!、これは先週採り逃がしたクロニセリンゴカミキリ。

今日は写真もちゃんと撮れた。

[ Eumecocera unicolor (KANO, 1933) ]

いつものシラホシカミキリ。

このカミキリ、何故か毎回ピントがちゃんと合わないんだよねぇ...。

「生態写真での相性」がいまひとつなのであった。

[ Glenea relicta relicta PASCOE, 1868 ]

その他、シラカバの伐採木でツマキトラカミキリを1頭つまんで、ぐるっと反対の材置き場へ回り込んでみる。


● ???

手始めに、ミズナラの倒木を観察していると、樹皮上を1頭のゴミムシのような黒いムシがヒョコヒョコ這い回っているのが見えた。

何だろう?

うおおおおお、こいつは...。


以前、どこかでお会いしてますよねぇ...。


やっぱり...。


原名亜種ツヤハダクワガタの♂であった。


再会を祝して、アップでもう1枚。

それにしても、冬季の材採集でしか出会ったことの無いクワガタだったので、なんか不思議な気分。

そういえば、夏季には灯火へも飛来するようなことを聞いたことがある。

しかし、こいつが何を求めて彷徨っているのかは不明だが、このように真っ昼間に目撃できたことは、ある意味貴重な経験かもしれない。

う〜〜ん、またまた来てよかった。

ちなみに、このような材の上を徘徊していた。

さて、この写真にも写っているが、奥の方にヤマブドウの枯れ蔓が見えると思う。

「Sさん」が採ったというヤマブドウから見れば、かなり細くしょぼい材なのだが、何となく「ピン」とくるところがあり、自然と引き寄せられた。

下の方に、アカネカミキリの残党が2頭。

それらを摘みつつ、上へと視線を移していくと...。

ああああああああああ。

ああああああああああ。

ああああああああああ。

ああああああああああ。

ああああああああああ。

私が勝手に名付けた「流星」、つまり触角の白い部分がはっきりと認識できる。ピョロピョロとそれを震わせながら産卵しているようだ。

さあ、どうする。

撮るの?、それとも採るの? >るどるふ

ああああ、逃がしたくない、でも写真は撮りたい。

脳のシナプスがショートしまくり、葛藤で混乱しながら、網を下に添えて震える手で写真撮影にトライ。

が、ピンボケ...。

深呼吸を数回して、もう一枚。

ああああああああああ。

涙、涙、涙、涙、涙...。

男泣き、男泣き、男泣き...。

涙、涙、涙、涙、涙...。

男泣き、男泣き、男泣き...。

涙、涙、涙、涙、涙...。

[ Teratoclytus plavilstshikovi ZAITZEV, 1937 ]

ああああああ、「やった〜〜」とか、「っしゃ〜〜〜」とか、嬉しいというよりは、もうため息と涙しか出ない。

何という幸せ、何という幸運。

もしかしたら、さっきのツヤハダクワガタが「幸運の女神か?」、でも♂か...、もう幼稚園の遊び場ように頭の中の整理がつかない。

ともかく「採った(撮った)」、理解できるのはそれだけだ。

ああああ、ムシ採りってなんて素晴らしいんだろう。

多趣味な私だが、こんな大きな感動、感嘆に浸れる趣味は今までなかった。この趣味に出会えたことを心の底から幸せに思う。

今回はお腹いっぱいではなく、胸がいっぱいになってしまった。


● エピローグ

ということで、ギガンティアの採集は叶わなかったものの、先週見事に振られた彼女は物にすることができた。

また、図鑑の写真から想像した通り、ハセガワトラカミキリはスレンダーで、可憐で、華奢で、本当にエレガントなカミキリムシであった。

採集成功のすぐ後に、「Sさん」も偶然現場に現れ、その場で報告とお礼を申し上げることもでき、本当に良かった。

このような素晴らしい経験のきっかけとなった「Sさん」に、この場を借りて改めて御礼申し上げます。

ありがとうございました。


★★ 採集成績 ★★

ミヤマクロハナカミキリ  6 exs.
[ Anoploderomorpha excavata (BATES,1884) ]

フタスジハナカミキリ  4 exs.
[ Leptura vicaria vicaria (BATES, 1884) ]

ヤツボシハナカミキリ  4 exs.
[ Leptura arcuata mimica BATES, 1884 ]

キヌツヤハナカミキリ  3 exs.
[ Corennys sericata BATES, 1884 ]

オオヒメハナカミキリ  3 exs.
[ Pidonia grallatrix (BATES, 1884) ]

アカネカミキリ  2 exs.
[ Phymatodes maaki (KRAATZ, 1873) ]

オオハナカミキリ  2 exs.
[ Konoa granulata (BATES, 1884) ]

シラホシカミキリ  2 exs.
[ Glenea relicta relicta PASCOE, 1868 ]

ヨツスジハナカミキリ  2 exs.
[ Leptura ochraceofasciata (MOTSCHULSKY, 1861) ]

オオホソコバネカミキリ  1 ex.
[ Necydalis solida BATES, 1884 ]

キスジトラカミキリ  1 ex.
[ Cyrtoclytus caproides caproides (BATES, 1873) ]

クロニセリンゴカミキリ  1 ex.
[ Eumecocera unicolor (KANO, 1933) ]

ツマキトラカミキリ  1 ex.
[ Xylotrechus clarinus BATES, 1884 ]

ハセガワトラカミキリ  1 ex.
[ Teratoclytus plavilstshikovi ZAITZEV, 1937 ]

ハンノアオカミキリ  1 ex.
[ Eutetrapha chrysochloris (BATES, 1879) ]

フタコブルリハナカミキリ  1 ex.
[ Stenocorus coeruleipennis (BATES, 1873) ]

マツシタトラカミキリ  1 ex.
[ Anaglyptus matsushitai HAYASHI, 1955 ]

マルガタハナカミキリ  1 ex.
[ Judolia cometes (BATES, 1884) ]

ヤツボシカミキリ  1 ex.
[ Saperda octomaculata BLESSIG, 1873 ]

他、未同定のヒメハナカミキリ属 [ Pidonia sp. ] 数種

総計:19 種(含初採集 2 種)+α 38 頭

原名亜種ツヤハダクワガタ  1 ♂


記載日:2002.07.22
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