2002年度 採集記(山梨県 カミキリ編 -2-)
2002.05.18 (Sat)

山梨県 某所

   天気:雨のち曇り
   気温:21.5 度
   湿度:84.7 %
   風力:1(微風)
● 何か変だぞ

道の脇に生えている「ヨモギ」の中に、頭をしなだれているものがいくつか見られる。

う〜〜ん、なるほど...。


これもそうだ。


ははぁ、これは「キクスイカミキリ」の仕業だな。

図鑑やネット上の写真で見たことはあったが、実物と遭遇するのはこれが初めてなため、いまひとつ自信が持てないが、多分、キクスイカミキリの痕跡に間違いない。

キクスイカミキリはヨモギ、オトコヨモギ、ヒメジュオンなどの「キク科」の草本をホストとするカミキリムシで、春から初夏にかけて里山に普通に見られる種類である。

さて、実際にこの周辺にはうなだれたヨモギが山ほど見つかるものの、肝心の主の姿はどこにもないようだ。

これを機会に採集してしまいたいところなのだが、天候がいけないのか、時季がいけないのかは正直分からない...。

いない、いない、いない、ここにもいない。

ガードレールの真下に多数のヨモギが生えているので、歩きながらず〜〜っとそれらを見ていくが、一向にキクスイカミキリは見つからない....。

「まあいいか」と諦めかけた矢先、萎(しお)れたヨモギの葉の上に何か黒っぽいものが止まっているのが見える。

あああああ!

これは...。


やった〜!

キクスイカミキリだ!!

久々の未採集種である。

思わず、一人きりで大きなガッツポーズ。

本当にうれしい。

[ Phytoecia rufiventris GAUTIER, 1870 ]

それはもう、天にも昇る気分だ。

こんな普通種のゲットでこれだけ喜べるのも滅多にない経験だろう。

ここぞとばかり、思う存分に喜んだ。


● 粗朶(ソダ)

キクスイカミキリのゲットで、かなりテンションが上がってきた。この調子でどんどんいきたい。

坂をず〜っと下っていくと、また畑の一角に「ソダ」が積み上げてあった。

当然、観察しない理由はない。

その一部。


とにかく材が豊富だ。

しゃがみ込んで、つぶさに各枯れ枝を見ていると...。

まずは外道。

シロヒゲナガゾウムシというらしい。

[ Platystomus sellatus ROELOFS ]

おおっ、ゴマフカミキリ。

本当は頭に「マダラ」とか「ヨツオビシロオビ」とか「フタスジ」とか付くのが欲しいんだけど、いるだけエライか...。

記念に1頭だけゲット。

[ Mesosa myops myops DALMAN, 1817 ]

さらにルッキングを続ける。

今度はナカジロサビカミキリを見つけた。

これも記念にゲット。

[ Pterolophia jugosa jugosa (BATES, 1873) ]

ん、ヒシカミキリもいた。

さっきはややピンボケだったので、今度こそ良い写真が撮れた。


ペアでもう一丁。

[ Microlera ptinoides BATES, 1873 ]

むむむ、まだまだいるぞ。

いつものやつら、アトジロサビカミキリ。

飛び降りる寸前のようだ。

[ Pterolophia zonata (BATES, 1873) ]

あとは、先ほど採集したアトモンサビカミキリが数頭といった具合である。

ふぅ〜、そこそこ満足できた。

さあ、車へ戻るとしよう。

帰りは上り坂となってキツイため、ゆっくりと道沿いに咲く「白い花」を観察しながら歩くことにした。

う〜〜む、すでにピドニア(ヒメハナカミキリ属)が飛び始めている。

説明するまでもないが、「死ぬほどいつものやつ」のチャイロヒメハナカミキリだ。

山梨産は初のため、ゲットしておいた。

[ Pidonia aegrota aegrota (BATES, 1884) ]

ちょっと期待が高まったものの、カミキリムシは今のところ、こいつらとフタオビヒメハナカミキリぐらいしかいないようである...。

クズ(葛)の葉上には、ペアのオジロアシナガゾウムシ。

大恋愛中...。

[ Mesalcidodes trifidus PASCOE ]

うぇ〜、葉の裏にはナナフシの幼虫が大量に...。

これはかなり気色悪いぞ。

というわけで、車のところまで来てしまったので、先へ進むことにする。


● ゴマフクエスト

しばらく走っていると、良さそうな場所を発見。

早速、チェックしてみる。

う〜〜ん、この斜面にはコナラやシデが密生している。

ただ、どうにも湿っていて暗い...。


これはイヌシデの立ち枯れだが、表面には何もいない...。

う〜〜ん、確かにここには良さそうな材がたくさんある。

が、1本1本丹念にルッキングを続けてみても、材は「しずく」が滴り落ちるほど濡れており、本日の条件では素人目にも駄目そうだ。

結局、小一時間探索してみたが、何一つ見つけることはできなかった...。

葉についた雨露が上から降ってくるため、すでに体中ずぶ濡れである。

まあ、仕方がない。

またいつか晴れた日にチャレンジしてみよう。

ということで、今度はメディオ(ヨツボシシロオビゴマフカミキリ)を探しにモミのポイントへ行くことにした。

車でどど〜〜っと、来た道を引き返す。

その途中、車道沿いの「白い花」をちょっとだけビーティングしてみると...。

おっ、ラッキー。

セスジヒメハナカミキリ。

やはりピドニアはこのような天候でも動いている。

[ Pidonia amentata amentata (BATES, 1884) ]

あああああ!

トガリバアカネトラカミキリだ。

これまたラッキーである。

びしょびしょに濡れており、身動きが取れないようだ。

今さっき飛来したと言うよりは、残留していたと言ったほうがいいだろう。

[ Anaglyptus niponensis BATES, 1884 ]

その後、15分ほどでモミのポイントへ到着した。

ポイント内には、比較的新しいモミの切り株が見られるので、ここでも念入りに観察してみたが、やはりカミキリムシの姿はない...。

もっとも、メディオは多産地と言われる場所でも、それほど個体数が多くないとのことなので、あっさりと諦めることにした。

この時期、葉の先端部分では新芽が出てきているようだ。

モミは常緑針葉樹と言っても、このように新陳代謝はちゃんと行われているのである。

さあ、これからどうしよう?

あとは、ここへ来る途中に大量の「モミのソダ」を見掛けているので、Uターンをかけてみるか。

他に名案もないため、再び先ほどのポイントの方向へ戻る。

さあ、どうだ?

ちょっと古い?


ん?

ベニコメツキか...。

なんか不思議な組み合わせだ。

[ Denticollis nipponicus CANDEZE ]

うおっ!、ちょっと待てよ、何かいる。

っしゃ〜!

カミキリムシだ。

そ〜〜っと下に手を当てて、落としてみると...。


うひゃひゃ。

キクスイモドキカミキリであった。

関東では初採集となる。

しかし、モミで採れるとは...。

[ Asaperda rufipes rufipes BATES, 1873 ]

さらに広葉樹の材の上には...。

やった〜〜!!

シロオビゴマフカミキリじゃないか。

ターゲットのゴマフではなかったが、これも未採集種のため「ぜんぜんOK」である。

ちなみに、こいつはゴマフとは言うものの、シロオビゴマフカミキリ属として独立している(=ゴマフカミキリ属ではない)。

嬉しいので横からもう一枚。

[ Falsomesosella gracilior (BATES, 1884) ]

ナカジロサビカミキリのペアも発見。

ここには、それなりにカミキリムシがいるようである。

[ Pterolophia jugosa jugosa (BATES, 1873) ]

目ぼしい種類としては、以上のような感じだ。

当然ながら?、メディオはいなかった。

さあ、目標としては最後となるが、クリブラータ(フタオビゴマフカミキリ)の探索へ出かけよう。

ターゲットはオニグルミの部分枯れだ。

幸い、この周囲にはオニグルミが豊富に自生しており、材を探すには事欠かない。

矢継ぎ早に車を停めては枝を見ていくが、これがまた結構ツライ作業である。

首がとても持たない...。

晴れているならまだ気合いも入るが、今日のような条件では「どうせ駄目だろう」という先入観が優先し、どうにも中途半端なルッキングに終わってしまう。

本当にカミキリムシの採集には、いろんな意味で「天気」が大事である。

いずれにしても、網が破けてしまいそうなので、やめてしまった。


● ネズミサシ

今までまったく触れなかったが、このエリアには「ネズミサシ」がけっこう生えている。

ネズミサシと言えば、ケブカマルクビカミキリ(アティミア)のホストである。

もっとも、この時季は採れないのだろうが、なんとなくビーティングしてみると...。

あれ?、何か落ちてきたぞ!!

えぇぇぇぇ....。

ウスイロトラカミキリ。

[ Xylotrechus cuneipennis (KRAATZ, 1879) ]

本来は広葉樹に着くカミキリムシなのだが...。

う〜〜ん...。

おそらく、雨が降っていたため一時的に避難していただけかもしれないが、それにしてもネズミサシにいるかねぇ。

でも、1種増えたので結果はオーライだ。

どうでもいいことだが、エゾハルゼミも発見した。

なかなか可愛い。


● オーラス

時計を見ると、もうすぐ5時である。

辺りは徐々に暗くなり始め、時間はさほど残されていない。

ということで、東京へ帰る方向へ走り、ポイントが見つかれば寄り道することにしよう。

とりあえずは広い道へ出て、スローに車を走らせる。

すると、国道へぶつかるちょっと手前の細い道にソダを発見した。

よ〜〜し、ここでオーラスだ。

見た感じ、フジ(マメ科)の材が大半のようだ。

と、一番奥の枯れ枝の先端に動くムシがいる。

ああああ、多分採ったことのないカミキリムシだ。

背中の紋様でそれが瞬時に判別できた。

う〜〜ん、心拍数が上がってきたのが分かる。

しかし、遠すぎてとても手を伸ばして採ることはできない。落っことしたら悔やんでも悔やみきれないぞ。

とりあえず、車から網を持ってきたが、これでは大きすぎて振動で落としてしまう可能性が高い。しばらく悩んでみたものの、何一つ得策が思い浮かばない。そうこうしているうち、カミキリムシはどこかへ消えてしまいそうである。

ええええぇい、もう一か八かだ。

ビーティングネットの一角を、思いっきりカミキリムシのいる材の下へ突っ込んだ。

っしゃ〜〜〜〜!

ムシがバウンドして一瞬「ヒヤっ」としたものの、運良くネットの上にキャッチした!

わ〜〜お、思った通り未採集のカミキリムシだ。

でも、普段見掛けない種類なので名前が判らない...。

まあ、そんなことは帰ってから調べればいい。

ああああ、最後の最後で報われた気分である。

ここに立ち寄って本当に良かった。

帰宅後の同定では、クビジロカミキリという材採以外ではあまり採れないカミキリムシのようだ。本来はツルウメモドキという植物に多く着くそうである。

それにしても、めっちゃラッキーだ。

[ Xylariopsis mimica BATES, 1884 ]

というわけで、いろいろなことがあった採集行だったが、最終的には十分な満足感とともにポイントを後にすることができた。


● エピローグ

悪天候なりにも、カミキリムシが採れてほっとしている。普段あまり体験できない出来事もいくつか経験することができた。

おそらく、ホームグラウンドの茨城県ではこうはいかなかっただろう。詰まるところ、このエリアが非常に多彩な植生を有し、多様なカミキリムシを育んでいる証拠であるということに相違ない。

当初の目標であったゴマフカミキリの仲間は、1種たりとも採集できなかったが、行っただけの成果は十分に得られたと思う。生息地を見るだけでも、今後の活動に深みが増すというものだ。

次回はぜひともドピーカンの下で採集を行いたい。もう「雨天決行」はなるべくしたくない。

最後に、今回の採集行に当たり、いろいろとご指南いただいたことを心より感謝いたします。


★★ 採集成績 ★★

アトジロサビカミキリ  5 exs.
[ Pterolophia zonata (BATES, 1873) ]

ヒシカミキリ  3 exs.
[ Microlera ptinoides BATES, 1873 ]

ナカジロサビカミキリ  2 exs.
[ Pterolophia jugosa jugosa (BATES, 1873) ]

ヒトオビアラゲカミキリ  2 exs.
[ Rhopaloscelis unifasciatus BLESSIG, 1873 ]

アトモンサビカミキリ  1 ex.
[ Pterolophia granulata (MOTSCHULSKY, 1866) ]

ウスイロカミキリ  1 ex.
[ Xylotrechus cuneipennis (KRAATZ, 1879) ]

キクスイカミキリ  1 ex.
[ Phytoecia rufiventris GAUTIER, 1870 ]

キクスイモドキカミキリ  1 ex.
[ Asaperda rufipes rufipes BATES, 1873 ]

クビジロカミキリ  1 ex.
[ Xylariopsis mimica BATES, 1884 ]

ゴマフカミキリ  1 ex.
[ Mesosa myops myops DALMAN, 1817 ]

シロオビゴマフカミキリ  1 ex.
[ Falsomesosella gracilior (BATES, 1884) ]

セスジヒメハナカミキリ  1 ex.
[ Pidonia amentata amentata (BATES, 1884) ]

トガリバアカネトラカミキリ  1 ex.
[ Anaglyptus niponensis BATES, 1884 ]

チャイロヒメハナカミキリ  1 ex.
[ Pidonia aegrota aegrota (BATES, 1884) ]

フタオビヒメハナカミキリ  1 ex.
[ Pidonia puziloi (SOLSKY, 1873) ]

総計:15 種(含初採集 3 種) 23 頭


記載日:2002.05.20
追記日:2002.05.21(採集結果一部訂正)
採集記(総目次)2002年度 採集記(目次)茨城県 カミキリ編 -11- へ続く....