2004年 ネキの旅 編

やっぱネキでしょう!

人間、「無くて七フェチ」と言われる。

私の場合、そのうちの1つが「ネキダリス・フェチ」であると言っていいだろう。

そう、ネキダリスへの限りないフェティシズムである。

一見、カミキリムシとは思えないような特異なフォルム。特に「コバネ」の部分に強烈な魅力を感じざるを得ない。

振り返れば、このネキダリスを採りたくてカミキリ採集を始めたのであり、誰に何と言われようが私の採集人生とは切っても切り離せない「永遠の憧れ」なのである。

で、今季は何かと出撃回数が限られているため、この夏最後となるかもしれない今回は迷うことなくネキを狙って出撃することにした。

それでは、めくるめくフェチな世界の始まりでございます...。



2004.07.17 (Sat) 〜
2004.07.18 (Sun)

関東地方かも

   天気:晴〜雨
   気温:17〜32 度

2004年 ネキの旅 編

● 一応...

現在、日本で確認されているネキダリスは全部で12種(亜種含む)とのことで、それらをざっと下に列挙してみる。

アイヌホソコバネ、カラフトホソコバネ、ホソコバネ、オオホソコバネ、クロホソコバネ、ヒゲシロホソコバネ、オニホソコバネ、ヤクオニホソコバネ、トガリバホソコバネ、キュウシュウトガリバホソコバネ、ヤクシマホソコバネ、アマミホソコバネ。

で、これまでに幸運にも私が採集させていただいたネキは、オオホソコバネ(ソリダ)とヒゲシロホソコバネ(オダイ)の2種のみである...。

う〜〜ん、ショボいな...。

もちろん、これらのネキを全種制覇したいのは山々X 山々だが、私のような へなちょこカミキリ屋にとっては間違いなく「無謀な野望」であり、明らかに身の丈を越えている...。

まあそれでも、採集人生の大きな目標になることは確かで、真剣に全力を尽くしてチャレンジするに値する「孤高の対象」とも言える。

全種の制覇にどれだけの時間がかかるかは分からないが、時には楽しみながら、また時にはヘロヘロになりながら、ひとつひとつ根気よく頑張っていくしかないだろう。

さて、出発しよう。


● びゅ〜〜〜〜!

とりあえず、金曜日の夜に家を出て高速道を「びゅ〜〜〜〜〜!」っとひた走る。

途中、目ぼしい街灯に寄り道をしながら目的地を目指す。

幸いにも雨は降っておらず、気温も夜中の時点で20℃前後とまあまあの条件だ。

しかしながら、カミキリムシはノコギリとクロがぽつぽつと転がっているぐらいであまりパっとしない...。

未採集のエゾカタビロオサムシの♂と、お土産用のクワガタを少しだけゲットして車中泊ということにした。

で、明けて土曜日の朝...。

昨晩は寝ている間にちょっとだけ雨が降ったようだが、すでに止んでおり当面は大丈夫そうだ。

予定時間に相棒と合流し、まずは最初のポイントを目指す。

しばらく歩くとブナがちらほらと現れ、どうやらネキの住み処に到着したようだ。

う〜〜ん、ブナ林...。

ブナの森に生息するネキダリスの代表はやはりソリダ。

本種はネキ採集の入門編と言われており、初心者でも比較的採集しやすいネキである。

まずはこのソリダから探してみたいと思う。

ブナの立枯れにはボコボコと小さな孔が開いており、ソリダのものと思われる羽脱孔も多く見られる。

さて、曇っていた空もゆっくりではあるが回復傾向にあり、時折陽が差すようになってきた。

チョウチョも飛んできたぞ!

う〜〜ん、ゴールデンタイムに突入かも。

「ああああ!」

少し離れた場所にいた相棒が奇声をあげた。

何かと思えば、ツヤハダクワガタがミズナラの立枯れに飛来してきたという。

そうそう、ツヤハダもネキと同じ方法で採れるのよね。

クワガタ屋の相棒には新鮮だったようで、とても興味深そうに「採る前に撮って」いた。

で、肝心のネキはというと、これが何故か飛来しない...。

気温がまだ低いからなのか、立枯れ表面が濡れているからなのか、理由はよく分からないが、一刻も早くその姿を拝みたいものである。

いるといえば、このキヌツヤハナぐらい...。

どうでもいいけど、異様に個体数が多い...。

相棒をこの場に残し、少々周囲を散策してみることにした。

で、しばらくして気がついたのだが、そう言えばノリウツギなどの花が全然咲いていない。

というか、すでに終っているようである...。

できればオオハナやコヨツの♂をネキのついでに採ろうと思っていたのだが、その目論みは敢え無く砕け散った...。

おそらく空梅雨の影響と考えられるが、昨年の長梅雨といい最近の異常気象には本当に泣かされる...。

1本、2本と立枯れを見回っていると、2メートルほどの高さのところをペタペタと這い回る「ハチ似」のムシをようやく発見することができた。

少々微妙な位置にいるが、なんとかなるだろう。

ぎこちない手つきでネットを寄せ、運良くネットインに成功した。

ひっひっひ...。

今年の初ネキでございます。

[ Necydalis (Necydalisca) solida BATES, 1884 ]

ああああ、すでに採集しているネキとは言え、やはりネキはいい!

とってもいいぞ!!

ネキ・フェチの私を十二分に興奮させてくれる。

とりわけコバネになっている縁の部分が何とも言えないのだ...。

そうそう、この湾曲しつつもキュ〜〜っと切れ上がっているところがね...。

へっへっへ...。

まあ、これ以上はうまく説明できない...。

この1♂を皮切りに、あちらこちらでネキが見つかるようになってきた。

うひょひょ!

でもピンボケ...。


うひょひょ!

またピンボケ...。


うひょひょ!

またまたピンボケ...。

ペタペタ歩き回るため、どうにも良い写真が撮れない...。

まあいいか...、ということで相棒のところへ戻ろうとしたところ...。

うひひ、静止しているぞ!

っしゃ〜!

ややベストショットかも...。

と、悦に入って採ろうとしたところ、実はこの姿勢で死んでいた...。

ああああ、どうりで...。

ソリダのベストショットはまた先へ持ち越しである。

その後もソリダを適度につまみながら来た道を引き返すと、向こうから相棒が歩いてきた。

成果を聞くと、ツヤハダとソリダを数頭採集できたようである。

もう少し粘ろうかとも思ったが、次第に雲行きが怪しくなり間髪入れずに雨が降りだしたため「ジ・エンド」となってしまった...。

仕方なく車まで戻ることにした。

本当はポエキラなども狙いたかったので残念である。

ボールが坂を転がるように山を下り、早々にこのポイントを離脱した。


● 行っとこうか!

さて、次はどうしようかということになるが、さて、どうしよう...。

天気の方は標高を下げるにつれ雨足が弱まり、麓にたどり着いた時には止んでしまった。

それではということで、以前から気になっていたエリアを探索してみることにした。

あわよくば、ネキの「最高峰」であるギガンが採れるかもしれない。

ん、ギガン??????

なわきゃないか...。

カミキリ屋なら誰もがほぼ確実に憧れる「The king of Necydalis」のギガンが私なんかに...。

ぶるぶるぶるぶるっ、どう想像をめぐらせても自分で採ったシーンをイメージできない...。

やっぱり、恐れ多いぞ!

無理、無理!!

う〜〜ん、でもトライしなきゃいつまで経っても採れないわけで...。

っしゃ、今日はいつも以上に「へなちょこ気味の本気」で探させていただこう。

ということで、気になるエリアへ向かった。


● 異様な空間

車を適当に停めて、何となく魅かれる方へ歩いていく。

しばらく行くとネットを持った数人の方(ネキダリスト)がおり、顔見知りの方もおられた。

しばし世間話や情報交換をした後、周囲を探索してみることにした。

おおおおおおお!

キボシちゃんか...。

再度、おおおおおおおおお!

これはギガンの「例の姿勢」か?

むむむ...。

バックドロップ中?

う〜〜ん、まあいきなりゲットなんてことは私の採集記にはあり得ないわけで...。

それにしても、ここは非常に怪しげというか、ギガンが生息していてもおかしくない異様な空間があちこちに広がっている。

もっとも、ギガンを採ったことはおろか見たこともない私がこんなことを言うのもおこがましいが、直感としてそんな感じがするのである。

ただ、なかなか本物には出会えない...。

ギガンはどんな飛び方をするんだろうか?

採集経験者の談話ではそれこそハチのようだとか、あるいはトンボのようだとか様々に表現されるが、どうしても自分の中ではイメージができない。

確かにかつて飛翔中のオダイをネットインした経験はあるものの、それは一瞬(数秒)のことだったし、不覚にもすっかり忘れてしまったのである...。

蒸し暑い中、半信半疑で1つ1つのクワをルッキングしていると、ある開けた場所を1頭のオレンジ色をした大型のムシが「ふわ〜〜」っと飛んでいるのを発見した。

もしや!

四肢に緊張が走る。

飛翔速度はそんなに速くなく、高さも目線のレベルだったので落ち着いてネットを振った。

ネットがきれいな弧を描き、無事にネットイン!

その瞬間はまさにスローモーションのようであった。

ネットの中から「ブ〜ン、ブ〜〜ン」と、まるで大型のハチやアブを採ったときのような比較的周波数の低い羽音が聞こえ、「こりゃ違うな...」という感覚で獲物を確認した。

どれどれ。

あああああ、やっぱハチだわ...。

いくらギガンと言ったって、こんなにデカイわけがない。

スズメバチか何かだろう。あああ、おっかない。

刺されないようにムシをネットの端っこに寄せて、改めてきちんと確認する。

へ?


まさか...

うおおおおおおおおおおおおおっ〜〜!!

ぬおおおおおおおおおおおおおっ〜〜!!

うおおおおおおおおおおおおおっ〜〜!!


オニホソコバネカミキリ
[ Necydalis (Necydalis) gigantea gigantea KANO, 1933 ]

っしゃ〜〜〜〜〜〜!!

やった、やった、やった、やった、やった!

やった〜〜〜〜!!

ひょえ〜〜〜〜〜〜、採っちまった。

がびょ〜〜〜〜〜ん、採っちまった。

え〜〜〜〜〜〜〜ん、採っちまったよ〜〜〜!

涙、涙、涙、涙、涙、涙、涙、涙、涙、涙、涙、涙...。

向こうから歩いてきた相棒ともガッチリ握手。

あああああああ、何ということだ...。

これは何かの間違いじゃないのか...。

あああ、でも凄い迫力だ。力も強いぞ。

ただですらネキ・フェチの私はもう泣き狂ってしまいそうだ。

「他のネキもそれぞれ良いが、やはりギガンは別格だ」

この実物を見ると、カミキリ屋がみなそう口を揃えて言うのが分かる気がする。

確かにオオトラなど、他にも大珍品と言われるカミキリムシはいるが、このギガンテアというムシは何かが違う。

立派な体格はもちろん、上品な金色の体毛、極限までくびれた腰つき、華麗なコバネ具合、すらっと伸びた長い脚、それでいて全体のバランスが抜群のカミキリムシ。

もう、後光というかオーラが立ち昇っている。

例えるなら「心・技・体」がすべて揃った「横綱」ぐらいしか思い浮かばない。

とてつもなく高い格調を備えている。

そんなカミキリムシを自分が採ったとは、やはりにわかには信じられない...。

ただひとつ、この手の震えだけがそれを証明しているようであった。

さて、ヒートアップする一方で興奮がまったく冷めやらないが、ここでタイムアップを告げる雨...。

相棒も疲れているようなので、ここで一旦休憩し、風呂→メシということにした。

もう放心状態で湯船に浸かり、上の空でメシを食べ、そのまま眠りについてしまった...。


● もちろん、夜の部も...

十分な睡眠をとった後、すっきりした気分で夜の採集をスタートする。

本能の赴くままに街灯を求め走り続けると、向こうの方にとても明るい水銀灯が見えてきた。

とにかく明るい...。

周辺の環境も申し分なく、今晩はここで粘ろうということに決めた。

日没を迎えて間も無くコクワ、アカアシ、ミヤマ、スジと次々にクワガタが飛来する。

こりゃ凄いね。

相棒と二人で、これからどれだけ飛来するのだろうかと期待が高まる。

が、しかし...、30分もしないうちに大雨となり、これまた「ジ・エンド」...。

何だかやる気も失せたので、戻って寝ることにした。


● 夢よもう一度

早朝にネットで知りあったAさんと待ちあわせているため、その場所へ直行する。

で、難なくAさんをゲット。

メールではお互い自己紹介を詳しくしなかったのだが、どうやら知人の知人のようで、ムシ屋の世界は非常に狭いかも...。

Aさんも「異様な空間」をすでにご存じのようなので、そのままポイントへ行くことにした。

するともう何人かのムシ屋さんが入っており、葉裏に止まるギガンテアの探索をされているようである。しかし、まだどなたも採られてはいないそうだ。

ただ、天気の方は曇ったり小雨がぱらついたり、ちょっとヤバイ感じだ。

で、案の定、本降りの雨となり一時的に避難。通り雨であることを願いながら雨宿りする。

その後、1時間ぐらい経っただろうか、ようやく雨もあがって採集可能な状況になった。

ということで、本日は半信半疑ならぬ七信三疑ぐらいで探索を開始した。

私も人の子、欲が出てきたのか、今度は是非とも♂が採りたくて仕方がない...。

さて、葉裏の個体は確率が低そうなので、クワの周囲を飛ぶ個体に狙いを絞ることにした。

ギガンもカミキリムシには変わりないのだから、飛ぶ条件としてはそんなに他と違わないだろう。

日が高くなり気温が上がってきた頃合いが勝負だと思う。

とりあえずは昨日♀を採った辺りで待ってみる。

言葉で説明できる明確な根拠はないのだが、これも何となく「直感」で採れそうな気がするのである。

で、15分ぐらい待っていると、自分の目の前をハチのような影が横切った。

今回は反射的にネットを振ったのだが、ラッキーなことにネットインに成功した。

手ごたえは十分、おそらくギガンだろう。

大きな期待感とともにネットを覗き込むと...。


オニホソコバネカミキリ
[ Necydalis (Necydalis) gigantea gigantea KANO, 1933 ]

っしゃ〜〜〜〜〜〜!!

♂だ!

サイズとしては小さいかもしれないが、れっきとしたギガンテアである。

あああああ、もう何も言うことはない。

胸がいっぱいである。

今日まで生きてて良かった、ムシ屋で良かった、あああ感無量、.......以下長くなるので略。

ということで、今回の「ネキの旅」はめでたく幕を閉じるのであった。

涙...。


で、どこが「めくるめくフェチの世界」なのか分からないって?

あなたにもあるはずですよ、自分で気づいていないフェチの世界が...。

ふふふ...。


● エピローグ

ああ、やっと、いいやたった3年でギガンを採ってしまった。

これは滅多にないとても幸運なことだ。

嬉しさを無理に押し殺すつもりもないのだが、今回私に採れたのは何かの間違い、ぐらいの気持ちでいようと思う。

ただひとつだけ今の気持ち書いておくと、それは「採った」という安心感が他のカミキリムシの場合と大きく異なるのは確かだ。

やはり長年カミキリ屋の「ステータスシンボル」として君臨しているだけはある。

これは素直にそう思う。

まあそれはそうと、今後も一層の精進を重ねてまだ見ぬネキたちとの出会いを実現させていけたらいいな。

最後に、ギガンという「究極なムシ」を育んできた日本の自然に心より感謝。

ありがとうございました。

PS: 短い間しかお話できませんでしたが、お疲れさまでした。 > Aさん


★★ 採集成績 ★★

オニホソコバネカミキリ(*)
[ Necydalis (Necydalis) gigantea gigantea KANO, 1933 ]


オオホソコバネカミキリ
[ Necydalis (Necydalisca) solida BATES, 1884 ]

その他、ノコギリカミキリ、キヌツヤハナカミキリ、ゴマダラモモブトカミキリ、エゾカタビロオサムシ、コメツキ類、ゾウムシ類、コクヌスト類、ビミョーなムシなどなど。

(*):生涯初採集...。


記載日:2004.07.20
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