2004年 オオトラの旅 編

神様、仏様、オオトラ様

今年は諸般の事情により採集機会が激減してしまったが、辛うじて保っている月一の採集では、石垣島での多種採集、アラメハナ、ギガンテアなど昨年以前とは比較にならないほどの好成績を残すことができた。

これらはまさに「幸運」としか言い様がないが、その陰には諸先輩と友人からのアドバイスや情報提供があったことを忘れてはならないだろう。改めてここに記し深く感謝したいと思う。

さて、いつもの私ならこれで十二分に満足して、冬以降の採集に期待を膨らませていたに違いない。

しかしながら、今年に限っては大きな「ツキ」の流れを感じざるを得ず、ここで歩を停めてはいけないのではないかという一種の強迫観念に襲われているのも事実である。

う〜〜む、この流れに乗ってみようかな。

ということで....、

「ツイテル、ツイテル、ツイテル!」

そう自分に暗示をかけながら出かけることにした。



2004.09.03 (Fri)

モミ林かも

   天気:曇りのち晴れ
   気温:26〜31 度

2004年 オオトラの旅 編

● んがが...

朝6時に東京の自宅を飛び出す。

高速道を疾走しながら、これまでのオオトラ惨敗の採集行を顧みる。

チャレンジ初年度は採集ポイントすら分からなかった。「モミ、モミ、モミ」と連呼しながら探し当てた場所がなんとオオトラポイントだったので驚いたが、KANさんとの衝撃的な出会いもその時であった(採りたての貴重な♂を見せていただいた)。今やすでに「古典」の範疇に入る懐かしい思い出である。

まあ、当然この時は私にオオトラが採れるわけなどないのだが、生息地の雰囲気を実際に肌で感じることができただけでも十分に行った甲斐があった。

その翌年以降はナイショの出撃も含めて年1〜2回ほど出かけているが、天気が悪かったり、時期を逃していたり、どれも惨憺たる内容だった。

惨敗した後の帰路で「とても自分に採れるムシではない...」「まったく採れる気がしない...」「採れる人は何か天性のものが違うんだ...」「最悪、一生に一頭だけでいいから何かの間違いで採れればいいや...」など、ガラにもなく悲観的で消極的な気持ちになったものである。さらに後日、私の行った前後の日でオオトラが採れたという話を聞くと、ショックで立ち直れないこともあった。

もちろん、何年にもわたって何十回、何百回と通って採れない人だっているわけで、私ごときの落ち込みなど、とてもちっぽけなものかもしれないけどね...。

いずれにせよ、この時期はオオトラ一本に絞って出撃することが多く、「採れなかったらそれでお終い、また来年までイジイジしながら待ちましょう」という惨めな採集行となり、それとは逆に運良く採れれば「あああ、神様、仏様、オオトラ様ありがとう、今日まで生きていてよかった、ムシ屋で良かった」というアメリカ映画顔負けのハッピーエンドを迎えることとなる。

まさに「ハイリスク・ハイリターン」な採集と言える。

金融業界や不動産業界では、「ハイリスク・ハイリターン」の商品にシロウトが気軽に手を出すものではないと言われているが、さすがにムシではそんなことはないはずだ...。

まあ、リスクと言ったって、時間を除けば往復の交通費ぐらいなんだけどね...。

ともかく「今年こそ行けば必ず採れる」、そう信じて(=自分を騙して)モミの木の下に立つしかない。

そんなことを思い巡らせているうちに、ポイントの目の前に到着した。


● んががが....

さてさて、今年もモミの木の下に立ちますかね...。

採集準備を整える際、いつもとは違った順番でアイテムを身にまとう。今回が「負け採集」にならないようゲンを担いでおこう。

ということで、モミ林へ突入。

ああああああああああああああ....。

いきなりオオトラがいたわけではなく、かなりショッキングな光景を目にしてしまった。

※ そのショッキングな光景の写真はしっかりと撮ってあるのだが、今はここで公開すべきかどうかを即断し得ないので、申し訳ないが今回詳細は伏せることにする。

なんだか心配になってきたなぁ...。

まあ、こんなことが原因で意気消沈しても仕方ないので、気分を切り替え各モミの下見を始めた。

モミ...。


モミ、モミ...。

しかし、気になるのは天気。

時折薄日が差すものの、可視範囲で雲の切れ間がほとんど見られない。気温も25度までしか上がっておらず、乾燥気味のためやや肌寒い感じがする。

まだ午前中の早い段階なので最終判断は下せないが、どうにも雲が厚い...。

う〜〜ん、あと30分様子を見て判断するか...。

というのも、本日ここの条件がダメだったら、一転、コブ叩きへ行こうかという代替案も用意していたからだ。

勝負に逃げ道を作るのは姑息的で情けないが、本当にダメならそれも仕方ないかと、最近は無理に「拘らない」性格になったことが大きい。まあ「逃げるが勝ち」となるかもしれないしね。

で、「モミ、モミ」言いながら30分待ってみるも、状況に明らかな好転はみられない。

え〜〜〜い、撤退じゃぁ〜〜。


●んがががが....

聞く人が聞いたら気の遠くなるような大移動をかける...。

峠をひとつ越えたあたりから雲が切れはじめ、盛夏の面影を残す強い陽射しが差してきた。

あちょ〜〜〜〜〜〜〜!、ちょっ!、ちょっ!!

ちょっと待ってよ〜〜。

この調子じゃポイント付近はドピーカンじゃないか...。

コブ叩きをしたいのに、それじゃあダメでしょう...。

でも、オオトラポイントを見切ってきた手前、引くに引けないのよね...。

じゃぁ〜〜〜いぃ、スロットル全開じゃぁ〜〜〜い!

パトカーも白バイも富士急ハイランドの「ドドンパ」もシューマッハもホーネットもスペースシャトルもぶっちぎりじゃ〜。


● んがががががが....

で、コブ叩きのポイントに到着...。

う〜〜ん、なんだか乾燥しているぞなもし...。

で、小一時間やってみたものの、まったくコブは落ちなかった...。

せっかくここまで来たんだから、1頭ぐらいは間違えて落ちてきてよ...。

でも、落ちなかった...。

それにしても天気が良い、良すぎる。

標高が高いにもかかわらず、気温は28度もある...。

神様、仏様、これじゃ暑いですよ(キッパリ)、乾燥しちゃってコブが落ちませんよ(キッパリ)...。

ジリ、ジリ、ジリ、ジリ、私の肌を焼く強烈な陽射し...。

じゃぁ〜〜い、しぇからしかぁ〜〜〜〜!

オオトラポイントへ逆戻りじゃぁ〜〜〜〜い!


● んががががががががががが....

大急ぎでオオトラポイントまで引き返すと、ポイントのすぐ横に一台の車が停まっていた。

トランクの脇にはネットが立て掛けてあり、オオトラ狙いのムシ屋さんであることは瞬時に分かった。

そのムシ屋さんは車内で涼んでおられるようなので、軽く挨拶をして林内へ入ることにした。

その方のお話では、まだ今日はオオトラの姿を見ていないとのことだ。

天気は予想通りのピーカンとなっており、気温は30度を越えそうな勢いである。

これはイケルかもしれないぞなもし。

縁起が悪いので 過去の惨敗経験は忘れ、頭の中で「ツイテル、ツイテル、ツイテル!」をリフレインする。

お願いですから、後生ですから、小生の届く位置までお降りくださいませ。 >オオトラ様

首の上下運動を繰り返しながらモミの幹を1本、2本、3本と順にゆっくりとチェックしていく。

こう、幹にベタっと張り付いていたら、それはそれは凄い光景なんだろうなぁ...。

今日こそは見てみたいものだなぁ。

でも、いないんだよね...。

現実は厳しい。

ふぅ〜〜〜、水でも飲むか...。

ネットをモミの木に立て掛け、ペットボトルのフタを開けた直後、私の頭上を1頭のオレンジ色のムシが「ぶ〜〜〜ん」と飛び去っていく。

一瞬、スズメバチかとも思ったが、それにしては重量感のある飛び方だ。

あれは膜翅目なんかじゃないぞ、鞘翅目、それもカミキリムシ科・カミキリ亜科・トラカミキリ属の飛び方じゃ〜〜。

待てまて〜〜〜!

飛行高度は約4メートル、ペットボトルのフタを閉め、ネットのシャフトを伸ばしながらヤツを追いかける。

飛翔速度に関しては、事前にイメージしていたほど速くなく、余裕で追いつく速度であった。

で、十分にネットの長さを確保したのち、一気に振り抜く。

入った〜!

ムーンサルトをしながらヤツがネットの底へ転がり落ちる。その様子がコマ送りのようにゆっくり見える。

こりゃ、ハチなんかじゃないぞ。

絶対にヤツだ!

急いでネットをたぐり寄せて中を覗いてみると、一網打尽となったヤツがワサワサと動いていた。

ヤツとは判りつつも、やっぱハチじゃないのかという疑心をぬぐいきれないまま、恐る恐る、でも大胆にヤツの六本脚をグワシと掴んだ。

うむむ...。

採られてくれてありがとう...。


オオトラカミキリ
[ Xylotrechus villioni VILLARD, 1892 ]

っしゃ〜!!

っしゃ〜!!

っしゃ〜!!

っしゃ〜!!

っしゃ〜!!

っしゃ〜!!

っしゃ〜!!

っしゃ〜!!

っしゃ〜!!

っしゃ〜!!

っしゃ〜!!

っしゃ〜!!

っしゃ〜!!

わ〜〜〜お、やった!

ついに、ついに採ったぞ〜〜!

ヤツが本当にヤツであると判明した途端、体中に鳥肌が立ち、躯幹から四肢へ向けて不随意に振動が走った。

すぐにそれが「手足の震え」であることが判ったが、どうにも止めることができない。

あああ、とにかく写真撮影を続けなければ...。

どこから見ても、


オオトラカミキリ。

ちなみにお嬢様。

あああ、えらいこっちゃ、えらいこっちゃ。

こりゃあの人に早く知らせなきゃ。

その一心でモミ林を電光石火に駆け抜ける。

「と、と、と、採れました....」

初めてのオオトラゲットであることを告げると、初対面かつヒト事にもかかわらず満面の笑みで祝福していただき、いろいろオオトラに関するをお話してくれた。

で、改めて自己紹介すると、その方はお名前をしばしば見かけるベテランの方(TOGASさん)で、その方も私のことをご存知であった。

とても気さくな方で、その後もいろんな経験談を聞かせていただいたり、採集のコツを教えていただいたり、非常に勉強になった。

さらには一時保管用のフィルムケースまでいただいてしまい、とても親切にしていただいた。

本当にありがとうございました。

ちなみに、フィルムケース内で180°の体位変換ができるサイズの場合は「オオトラ」とは言わないそうだ。

ということで、私の初ゲットの個体は「チュウトラ」か「コトラ」ということになる。

で、しばらく林内で採集をご一緒させていただいたが、自宅から無慈悲な帰れメールが着信...。

非常に名残り惜しいが、ポイントを後にすることとなった。

愛車に乗り込み、念のため初ゲットのオオトラ嬢を入れたフィルムケースを開けて元気がいいかどうかを確認する。

う〜〜む、元気だ。

どうでもいいけど、まだ手が震えてるかも...。


撮り直し...。

非常識にデカイ前胸背と十文字がたまらんのよね...。

おおおっと、うかうかしていたらケースから滑り出てしまった...。

やばいやばい、ここで逃げられたらすべてがおじゃんだ。

すかさず掴み直すが...、

ガブリんちょ...。

うんうん、君なら咬んでもいいよ。

ということで、ケースに仕舞い直し、東京へ向けてアクセルを踏み込んだ。

感無量...。

それ以外の言葉がみつかりません。

これにて今回の採集行は一巻の終わりでございます。

最後に現地でいろいろお世話になったTOGASさんにこの場を借りて御礼申し上げます。

ありがとうございました。

※ 後日談ですが、TOGASさんも私が去った後にオオトラを見事ゲットされたそうです。本当におめでとうございました。


● エピローグ

う〜〜ん、ついに採った。

この4年間、オオトラカミキリの野外成虫自力採集を実現すべく頑張って、そして諦めないで良かった。

本日の採集成功で、今までの悔しい思いが何倍もの嬉しさとなって帰ってきた。

一時は逆立ちしても自分には採れないと自暴自棄になったが、ともかく相手が何であろうがまず行動を起こして挑戦してみないことには始まらない、そしてなんとかモチベーションを保って諦めないことが大切であるということを今回も実感した。

そして、このオオトラカミキリというムシは「大のオトナを子供へ変える」不思議な魔力を持ったムシなのかもしれないな...。


★★ 採集成績 ★★

オオトラカミキリ(*) female, length 29.3mm
[ Xylotrechus villioni VILLARD, 1892 ]

(*):生涯初採集...。


記載日:2004.09.04
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